NOVEL

【最終回】運命の輪 vol.10~Hang up philosophy!~

「・・会えて嬉しい」

紗希がそう言うと、香那が一瞬、目を見開いてから嬉しそうに笑う。

「紗希ならそう言ってくれると思っていたわ」

違和感を隠さない人も多いから、と香那は言葉を続けた。

「高校時代、紗希言ったでしょう?“哲学こそ全てなのに”って」

ロミオのセリフについて話していたときだった。

 

「だいたいこのセリフがおかしいわ」

「“Hang up philosophy!”ってやつ?」

「そう!物事は哲学が全てなの、形や見かけに意味はないわ」

 

そんなことあったっけ、と紗希は思う。

「だから紗希が好きだったのよ」

不意に告げられ、もう一度香那を見つめ直す。

 

「もちろんセクシャルな意味で、よ」

「・・気づかなかった」

「そうね、というより紗希はもう好きな人がいたのね」

それが克哉のことだと、今の紗希ならはっきり解る。

「心の中にずっとあったのね、彼への想いが」

「・・そうね。私、克哉くんが好きだった」

言葉にすると溢れ出す。

止まったはずの涙が後から後から湧き出てくる。

 

香那は何も言わず、ただ紗希の背中を優しく摩り続けてくれた。

 

  • はじまりの刻

 

ひとしきり、泣き尽くしたのか紗希は空を見上げる。

辺りは夕闇に包まれ出していた。

 

「ねぇ、紗希。運命は廻って行くの」

La Roue de Fortune ― 運命の輪

 

「私たちには器があって、先に行った人とはまた違う輪にいる」

香那が克哉のことを話しているのだと紗希にも分かる。

「彼のことを想ってていいのよ。でも他を否定してはだめ」

「・・・」

「焦らなくて良いわ。ゆっくり動かせば良い」

香那が紗希の髪を優しく撫でる。

紗希は夕暮れを見つめながら、深く息を吸い込んだ。

「きれいね」

そう呟いた紗希を見つめて、香那は微笑んだ。