NOVEL

【最終回】運命の輪 vol.10~Hang up philosophy!~

202X年 624日 土曜日 午前9

 

同窓会の日から2週間。

紗希は仕事に没頭して過ごしていた。

数字と報告書、正確に効率的に処理し続ける。

 


前回: 運命の輪 vol.9~空白の時間~

はじめから読む:運命の輪 vol.1~動きだす時間

 

  • 夜は明けて

 

食べることも、寝ることも煩わしく思えた。

携帯電話は電源を落としたまま触れてもいない。

誰とも話す気になれない。

休みの日は尚のこと、落ち着かない気分になる。

 

ピンポーン

チャイムが響く。モニターには純也の姿が映し出されている。

この1週間、連絡の取れない紗希を案じて何度となく部屋を訪れていた。

1度も紗希が応えることはなかったけれど。

 

部屋に居ると胸が苦しくなる。

紗希は身支度を済ませてエレベーターに乗り込んだ。

一階に着いてホールに出たところでフランスパンを抱えたピエールと鉢合わせした。

軽く会釈をして通り過ぎようとした紗希の行く手を塞ぐ。

「お邪魔しようと思っていたの」

ピエールに肩を捕まれ、紗希は顔を上げる。

「ひどい顔ね。美人が台なしよ。さ、いらっしゃい」

断る隙を与えず、ピエールがエレベーターへ誘う。

紗希はそのままついて行くしかなかった。

 

48階 ルーフテラス。

 

「今日はお天気だから、気持ち良いでしょう?」

テーブルにカフェオレと買ってきたばかりのフランスパンを置きながらピエールが笑いかける。

 

紗希は無言のままカップを受け取った。

「由衣ちゃんから預かったものがあるのよ」

ピエールは顛末を知っているらしかった。

「・・・」

無言でいる紗希に封筒が差し出される。

「坂本くんのお母様からだそうよ」

「!」

震える手で紗希が封筒を開けると、中に手紙が1通入っていた。

添えられた便箋には“あなたの幸せを願っています”と書かれている。