NOVEL

【最終回】きっとこの先は。vol.10~きっと悪くない~

鈴木との会合を終えたのち、私たちは現状の対策を話し合い、改革を推し進めた。

組合のためでもお店のためでもなく、自分たちとお客様のために。まずは目に見えるところから一つずつ解決していこう。

絡まったところはほぐし、張られていない部分は張り直し、一つずつ、一つずつ丁寧に整理していく。

 


前回:きっとこの先は。vol.9~昔のように、自然に~

はじめから読む:きっとこの先は。vol.1~この夜を迎えるまでは~

 

 

「さて、必要なのはこのくらいかしら。動画はあとで制作会社さんに頼むとして、内容を考えなきゃね」

「そうですね、スムーズで助かります」

 

鈴木も無理に張り付けた笑顔ではなく、本心から笑っているように見える。

桜井さんも自身が他店舗のつなぎ役となって、精力的に協力してくれた。組合の人たちを動かすための、必要な伝え方や情報を知り尽くしているようだ。身にまとっている気配は伊達ではないらしい。その仕事ぶりに敬服するばかりだった。テキパキと連絡をこなし、必要な連絡を必要な場所に行う。その速さと正確さは素晴らしいものだった。

 

「今日はメーリングリストにお知らせのメールと、HPへの報告書類のアップロードをお願いしますね」

「桜井さん、凄いですね。私も負けていられない」

「私は組合の設立に少しだけ関わりましたから、全体を見やすいだけですよ。0から作ることは苦手です」

 

それでも素直に素晴らしいことだと思った。私も負けていられない。もう一度、胸の中で繰り返す。知らなくてよい、ではなく、常に考えることだ。あの日、堤防で受け取った小柳君からの言葉で、自分の考える範囲が如何に狭かったかを思い知った。常に考えを巡らす、それでようやく最低ラインに立てるのだと思う。

 

 

「え、わたし、動画になっちゃうんですか!」

「髪とお化粧、整えてきますね」

 

美雪さんと久美さんも、今回の内容に乗り気でいてくれる。特に、普段は冷静な久美さんが平静を装いながらもはしゃいでしまう部分を隠せておらず、それが可愛らしく、また可笑しかった。

 

「女将さん、彼氏さんいたんですね。しかも、6年で会社の社長」

「昔の、ね」

小柳君も相変わらず良いお料理を作るために思考錯誤している。鵜飼をテーマにあげた鮎の料理、季節の野菜や奥美濃古地鶏を使った料理、お酒もそれぞれに合うように、辛口や甘口の日本酒をメインに揃えている。

 

ひたすら厨房に籠る時間も増え、それはそれで、少し心配でもある。が、お店の人たち全員が組合と協力して、または組合に負けないように、それぞれがそれぞれの目標を立てて進んでいた。