NOVEL

きっとこの先は。vol.9~昔のように、自然に~

待ち合わせ場所はこの前と同じ喫茶店だった。今日は私が先に着き鈴木を待っている。

ここの喫茶店は、店内自体は狭いが昔ながらのアイスコーヒーやサンドウィッチなどが楽しめ、なんだか懐かしい気持ちになる。

 


前回:きっとこの先は。vol.8~覚えているだろうか。~

はじめから読む:きっとこの先は。vol.1~この夜を迎えるまでは~

 

 

 

「お待たせしました」

 

前回と同じく、くたびれたスーツ姿で鈴木は現れた。その少し後ろから、ごめんください、と桜井も続いた。どんな会合の時にも同伴するとは頭が下がるものだ。鈴木はホットコーヒーを、桜井はミックスジュースを、それぞれ席についた時に頼んだ。

 

「ご連絡ありがとうございました」

「いえ」

 

夏も終わりかけの時期に少し寒いくらいの空調だったが、少し汗ばんだ。手を握る力が少し強くなる。

「早速、お手伝いいただきたい件についてですが…」

「その前に、貴方が本当にやりたいことを教えてください」

 

私は、しっかりと鈴木を見て言った。鈴木との昔の出来事は一旦端に追いやって、まずは鈴木の今をちゃんと見なければいけないと思った。その真意をちゃんと理解しなければいけない。

「僕の気持ちは前回お伝えしたことと変わりません」

運ばれてきたコーヒーに手をつけることもなく、鈴木は話し始めた。

 

「僕は、この街を守りたい。夏は鵜飼、秋には金華山の紅葉、冬には山と川の雪景色、春には淡墨桜…。そのそれぞれを日常の中で歩きながら、美味しいお料理を食べながら、ゆっくりと楽しむことができる。一箇所でこんなにも移り変わりを楽しめる場所なんて、そうそうありません。この憩いの場を、僕は守りたいんです」

 

いつもの貼り付けたような笑顔は、今の彼には見られなかった。少し俯き、恐る恐る、しかしはっきりと芯をもって話す。昔、音楽を語っていたときの彼がそこにはいた。

「わかりました。でも、やはり尚更、そうであれば私よりも影響力のある方に頼んだ方が…」

「…貴女が良いんです」

「え…」

 

今度は急に空調の冷気を肌に感じ始めた。鼓動が早まり体温は上がる。なんともチグハグな感覚に、調子を崩してしまいそうだ。

「…僕は、貴女に認めて欲しかったんだと思います。頼られたかった。今のままじゃいけないと、思った」

歯切れ悪く、彼は言葉を繋げていく。頭に浮かんだ言葉を、辛うじて文法が成り立つように、間違った伝わり方をしないように、慎重に選んで紡いでいるかのようだ。ジグソーパズルのように、はめては外しを繰り返しながら、伝えたいことを形作っていく。

 

「あの頃の僕は、何もできなかった。だから、何でも出来る人間になろうと、ここ数年は躍起になっていた。今度こそ、力になれると思ったんだ」

 

昔の情なのか、目の前にいる男が話す内容に打たれたのか、組合の状況を考えてか、はっきりとはわからないが、私の心はここで既に決まったような気がする。目の前の男に顔をあげるよう伝え、コーヒーを口に含みながら答えた。

 

「わかった。協力します。現状についてもう一度整理して教えて」