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タイタニック号はなぜ私たちを惹きつけるのか?

実際に起きたタイタニック沈没事故をベースにした愛の物語・映画「タイタニック」。1997年に公開されたこの映画は、洋画・実写映画共にトップに君臨し続ける不朽の名作として多くの人に知られています。そして約1年前、そんなタイタニック号を一目見ようと試みた潜水艇「タイタン」が水圧に耐え切れず破壊されたというニュースが世界中を駆け巡りました。100年以上経過してもなお、タイタニック号が私たちを惹きつけるのは一体なぜなのでしょう。今回は、タイタン事件と共に「タイタニックの魅力」について紐解いていきたいと思います。

タイタニックと氷山の原画

 

【タイタン事件について】

2023年618日、大西洋の海底に眠るタイタニック号の見学ツアーに向かったタイタン号との交信が途絶えたというニュースが世界中を駆け巡りました。タイタニック号が沈む深海へとツアーで向かった潜水艦「タイタン」が行方不明になった悲しい事故。残骸が発見され、乗客5人の生存は絶望視されています。光も電波も届かない深海で何が起こったのでしょう。

Oceangateの潜水艇。出典元: gg5795 / Shutterstock.com

 

海底から見つかった残骸、米軍の探知システムに捉えられた破裂音…。この事故はいまだ不明な点が多いようです。しかし、さまざまな専門家の話によると、深海の水圧によって引き起こされた事故だと推測されています。観測窓のつなぎ目のネジが外れる、もしくはなんだかの衝撃等で隙間が生じるというトラブル、最初から船体に小さな亀裂が入っていたなど、いずれにせよ水圧で船体が破壊されたようです。メディアでは「爆縮」や「圧壊」などといった言葉で表現されていました。 

水圧は、10m深くなるごとに1気圧ずつ高くなっていくといわれています。タイタンの破片は、タイタニック号の船首から約490m離れた場所で見つかりました。そのため水深は3800m、つまり約380気圧がかかったということになります。1cm四方に380キロの重さがかかった状態です。気圧で破壊される前段階で、船体からはピキピキという音が聞こえたのではないでしょうか。また、水圧によって一瞬でつぶれてしまった潜水艇には「断熱圧縮」という働きが加わったと思われます。断熱圧縮とは、外部に熱が逃げないように断熱して気体を圧縮すると、その気体自体の温度が上昇する現象のことをいいます。この現象で、船内は60008000℃近くまで上昇したとの見方もあるそうです。

 【タイタニック見学ツアーについて】

 今回のツアーには、ドバイを拠点とする航空機仲介会社会長のハミッシュ・ハーディング氏、パキスタン有数の富豪の一族であるシャーザダ・ダウード氏とその息子スールマン氏、フランスの海洋学者、ポールアンリ・ナルジョレ氏、そして潜水艇を所有するオーシャンゲート創業者でCEOのストックトン・ラッシュ氏の計5人が搭乗していたとされます。ツアー代金は1人当たり25万ドル。日本円にして約3500万円です。

ハミッシュ・ハーディング氏が所属する会社のマネジングディレクターは旧Twitterで「潜水艇は首尾よく出発し、ハミッシュは潜水中。今の最新情報をお楽しみに!」と投稿していました。 

オーシャンゲートによれば、タイタン号は18日、2時間の潜水予定でタイタニック号見学に出向し、96時間分の酸素を積んでいたそうです。

通常は、水圧が均等にかかり一番圧力に耐えられる球体の潜水艇を使用するようですが、タイタンは、胴長の円筒型でした。円筒型は深海の圧力に耐えられる作りとは考えにくいといわれています。

また、潜水艇の耐圧殻は通常10cmほどの厚みがあるチタン合金製を使用しますが、タイタンは炭素繊維だったと報じられていました。

世界の深海調査研究の中核を担う日本の有人潜水調査船「しんかい6500」の耐圧殻は内径2mほどの球体で3人乗り。一方で、タイタンは5人乗り。

5人乗れるようにするために胴長の円筒型にしたのかもしれませんが、乗組員の安全面が担保されていたのかは疑問です。

前述したように、実際の原因やきっかけは不明ですが、事故が起きてしまった以上、不適合品だったということに間違いないのではないでしょうか。

 

【タイタニック号を引き上げない理由】

 

タイタン号のニュースを見て「船が沈んでいる場所や深さ、沈没の経緯までわかっているにもかかわらず引き上げないのはなぜなのか」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。ここでは、タイタニック号を引き上げない理由についてみていきましょう。 

<理由①>

タイタニック号は、イギリスのサウサンプトン港からアメリカ・ニューヨークへ向かう航海の4日目に沈没。当時、世界最大級の豪華客船であったタイタニック号には、2224人の乗客が乗っていました。この事故で亡くなったのは当時最多の1514人で、史上最悪の海難事故となりました。事故直後の混乱はもちろん、人命救助や、救助された人の保護が優先となり、船の引き上げを考える余裕がなかったといわれています。これが、タイタニック号を引き上げなかった1つ目の理由です。 

<理由②>

2つ目の理由は、損傷と腐敗が大きかったということ。タイタニック号が沈没したのは1912年ですが、沈没した船が発見されたのは198591日で、この間70年以上。船体は長い期間海底に沈んでいたため、かなり脆くなっていたそうです。脆くなった船は、引き上げる際にバラバラになってしまうため、引き上げることができないとか。現在は、かろうじて原型を保っている状態だそうです。 

<理由③>

3つ目は、生態系を破壊しないようにといった理由です。長い期間海底に沈んでいた船は、いつの間にか魚たちの住み家となっています。引き上げてしまうことによって、そこに築かれた生態系を崩してしまわないようにという人間の優しさもあるようです。また、タイタニック号がつくった生態系の中には、新種のバクテリア「ハロモナス・ティタニカエ」が発見されています。

ハロモナス・ティタニカエは、鉄を食べて活動する鉄バクテリアです。食べると言っても、直接鉄を捕食するという意味ではなく、鉄を酸化させ、そのエネルギーで代謝し活動しています。このバクテリアは、約5万トンの鉄の塊であるタイタニック号を確実に腐食させている原因としても挙げられています。2100年になる頃には、タイタニック号は跡形もなく消えてしまうそう。そんなハロモナス・ティタニカエの特性を利用して、世界中の海底に沈んでいる金属ゴミを解消できるかもしれないという可能性も指摘されていようです。 

<理由④>

4つ目の理由は技術の問題と経費の問題。全長269.1m、全幅28.2m、高さ53m、重さ6328トンのタイタニック号を引き上げるには相当な技術を要します。沈んだ船以上に大きなクレーン船を用意しなくてはなりませんし、船が沈んでいるのは3600m以上の深海なので、技術的に難しいでしょう。

 

2014416日に大韓民国の大型旅客船「セウォル」が全羅南道珍島群の観梅島沖海上で転覆し、沈没した事故を覚えているでしょうか。修学旅行中の高校生ら295人が死亡した事故は、世界中に衝撃を与えました。そんなセウォル号の引き上げは、2017年から2018年にかけて行われました。韓国の海洋水産省は当初、まだ船内に残っているかもしれない行方不明者が損傷する可能性を懸念したため、船体を切断せずに引き上げることに。水深約44mの海底から重さ6,586トンのセウォル号を引き上げるのにかかった費用は約850億ウォン(日本円で108円億以上)です。

それよりも巨大で、さらに深く沈んでいるタイタニック号を引き上げることになれば、費用は莫大なものになることが容易に想像できます。

また、引き上げに成功したとして、その船を解体するのか、保存するのかといった問題もあり、どちらにせよ引き上げた後にも莫大な費用が必要になります。そしてその莫大な費用はいったい誰が負担するのでしょうか…。

 

上記のような理由からタイタニック号の船体は、今もなお深い海の底に沈んでいますが、一緒に沈んだ品物は引き上げられています。引き上げられた食器やおもちゃ、日用品などはタイタニック由来の品としてオークションに出品され、多額な金額で落札されました。

 

タイタニック号の謎

 SNSが普及している現在、TikTokで投稿されたのは「タイタン号が水圧で潰される瞬間」という映像。ものすごいスピードで世界中に拡散された映像ですが、虚偽と言われています。カメラが回収されたという情報もなく、動画には別の日時と場所で撮影されたものをつなぎ合わせた形跡があるとか。今はSNSでの拡散ですが、このように歴史的な事故や事件が起こると、都市伝説のような噂や謎が囁かれます。そんな噂がタイタニック号にもあるようです。

<タイタニック号の噂①>

1つ目は「タイタニック号の出航直前になぜか人事異動が行われた」というもの。見張りのクルーであったブレア二等航海士は下船され、変わって見張りを任されたクルーは、双眼鏡の場所がわからず肉眼でまわりを確認するしか手段がなく、氷山の発見が遅れてしまったといわれています。

また、スミス船長やクルーは、氷山警告を何度も無視したという話も。2人は、氷山警告に返事を出さず、タイタニック号のオーナーのブルース・イズメイに指示を仰いだそうです。そこでイズメイは「大西洋に氷山はよくある」の一言で処理。

このようにベテランの見張り役を人事異動で外したことや、氷山警告を無視したことから、「タイタニックの沈没は計画的だったのでは?」と噂されているようです。 

エドワード・J・スミス英国海兵隊の将校。彼はタイタニックの船長で、船が沈んだ時に死亡。出典元: meunierd / Shutterstock.com

 

<タイタニック号の噂②>

モルガンというタイタニックのオーナーとその関係者は、直前になって乗船をキャンセルしました。また、モルガンが保有する美術品などの積み込みもキャンセルしたのです。モルガン自身はキャンセル理由を病気だと語ったそうですが、後に同じ時期、エジプト旅行に行っていたことが判明。そのことから、タイタニック号が沈没することを知っていたのではないかと噂されているようです。 

<タイタニック号の噂③>

タイタニック号の沈没によって1500人以上が犠牲になったと言われていますが、見つかっていない遺体の方が圧倒的に多いといわれています。そのため「消えた遺体」「見つからない遺体」などと言われ、噂ひとつとして扱われているようです。しかし、広い海で流されたり、船内に閉じ込められていたり、海洋生物によって食べられてしまったりと、見つけることはかなりの難易度です。遺体は消えたのではなく、海の一部になったと考える方が無難かもしれません。 

<タイタニック号の噂④>

タイタニック号には、よく似た姉妹船「オリンピック号」がありました。造船時期は同時期でしたが、運用はオリンピック号の方が先だったそうです。そのオリンピック号は、タイタニック号が沈没する7カ月前に衝突事故を起こして船体に穴が空いてしまったとか。しかし、オリンピック号は保険金が受けられない船だったのです。そのことから、タイタニック号とオリンピック号をすり替えて、海運企業が保険金を得ようとしたと噂されています。つまり、オリンピック号をタイタニック号として航海させ、保険金がかかる状態にしたのではないか、というわけです。実際、タイタニック号が航海直前にドッグで整備をしていた時、オリンピック号も同じドッグにあったためこの噂が強まりました。

しかし、いくら似ているといっても、全く同じデザインではないため、違いに気づくのではないか? ともいわれています。 

タイタニック号の真実

 さまざまな噂が囁かれている中で、何が本当で何が嘘なのかわからなくなってくることかと思います。ここでは、タイタニック号の真実をみていきましょう。

1912年4月18日、アメリカ・ニューヨークに到着するタイタニック号。出典元: meunierd / Shutterstock.com

<タイタニック号の真実①>

1つめは、4本の煙突のうち、1本は偽物だったという真実。タイタニック号をより豪華に見せるための飾りだったといわれています。 

<タイタニック号の真実②>

乗船した演奏家は352曲を暗記していました。豪華客船だけあって、レベルの高い音楽家が雇われていたということがわかるかと思います。映画タイタニックでは、沈没している船で演奏を続ける演奏家たちが描かれています。これは実話で、乗客を落ち着かせるために誰一人として逃げることなく演奏を続け、最終的には全員亡くなってしまったそう。 

<タイタニック号の真実③>

タイタニック号の最年少生存者は当時2ヵ月だったミルヴィナ・ディーンさん。一番低い3等客室に滞在していましたが、赤ちゃんということで優先的に救命ボートに乗る事ができました。一緒に乗船していた兄と母も生還できましたが、父親は生還することができなかったそうです。

 

♦♦♦

 

いかがでしたでしょうか。

さまざまな理由から今もなお海底に沈み続けるタイタニック号。

近い将来跡形も残らずなくなってしまうタイタニック号だからこそ、私たちを惹きつけるのでしょうか。それとも、噂を突き止めたいからでしょうか? いいえ、きっとまだまだ不思議な魅力を持っているからでしょう。

 

 

Text by yumeka