NOVEL

御前崎薫は…vol.10~前へ進む~

槙さんに誘われるがままに向かった先は、いつものコンビニだった。

槙さんはさっさと歩いて中に入ると、カゴにチューハイやプライベートブランドのつまみ、ポテトチップスにアイスと、容赦なく入れていく。

 


前回:御前崎薫は… vol. 9~再会する~

はじめから読む:御前崎薫は… vol.1~女が怖い~

 

 

「私、本当はこういうものが好きなんです」

「そう……なんですか」

それならば、と。僕もビールとつまみ、それから先日買った牛丼と同じものをカゴに入れた。

「お米系もいっちゃうんですか?」

槙さんのその言葉には、面白がるような響きがあった。

「えぇ。これ、意外とイケるんですよ。食べたことあります?」

「信頼できる人が勧めるものは試してみることにしてるので、私も買います」

槙さんはそう答えると、躊躇なく牛丼を、すでに物でいっぱいなカゴの中に加えた。

 

好きなものを買いつくした僕らは、いっぱいになった袋をそれぞれ持って、マンションへと向かった。不思議と、エレベーターに一緒に乗っても、嫌な感じはしなかった。槙さんも同じだと良いなと思う。

 

槙さんはそのまま、迷うことなく自分の部屋へと僕を招いた。

部屋の中はいたってシンプルで。よく言う「女の子の部屋は良い匂い」だとか、そういうのはよく分からなかった。

「適当に座ってください」

「なんと言うか……あまり、物がないですね」

「片付け苦手なんです。だから、最初から物を減らせば良いかなって」

槙さんはソファに腰を下ろすと、自分の持っていた袋からチューハイを取り出した。僕も慌ててそれと向かい合うように座り、ビールを出す。

 

「本当は、御前崎さんと一緒に飲まないようにしようと思ってたんですけど。この前、みっともないとこ見せちゃったし」

「あ……そんな」

それでだったのか、と。ちょっとホッとする。警戒されていたわけじゃなかったのか。

 

「……あの、さっきはありがとうございました」

ビールに口をつける前に、頭を下げる。頭を掻き、小さく息を吐く。

「まさか、あんなところで会うとは……行かないからって、同窓会やる場所を確認してなかった僕のミスです」

「そうですね。御前崎さん、意外とおっちょこちょいなところがあるんだなって思いました」

クスクスと笑いながら、槙さんが相槌を打つ。その喉を、ごくりとチューハイが下る音が聞こえた。

 

「そのうえ、槙さんにいざというところで助けてもらって……やっぱり僕は、ダメですね」

槙さんに引かれた手を見つめる。まだ、あの小さな手のひらの感触が残っているような気がした。

「ダメなんかじゃないですよ」

柔らかい声で、槙さんが言う。その頬は、アルコールのせいかほんのり赤い。

「御前崎さんは、あそこで一生懸命戦っていたんだと思います。私、御前崎さんが当の彼女に会ったりしたら、逃げ出すか、倒れちゃうかするんじゃないかと思っていましたけど。辛いはずなのに笑顔を作って、その場に留まっていたじゃないですか」

「そう……でしょうか。でも、結局槙さんに助けられて――」

「私に助けられたから情けないんですか?それは、私が女だからですか?女なんかに助けられて情けない――って。そう思ってるんですか?」

槙さんの目が鋭くなる。慌てて、「違います」と両手を振った。

「そうじゃなくて。僕がどうにかしなきゃいけないことを、槙さんに肩代わりさせてしまった気がして」

「それなら問題ないです。だって私たち、同志じゃないですか。同志は助け合うものでしょう?」

そう告げる槙さんは、胸を張って堂々としていて。それがやたらとカッコ良く見える。