NOVEL

【最終回】運命の輪 vol.10~Hang up philosophy!~

手紙を開ける手が更に震える。

 

“坂本克哉へ 大きくなった君はなりたい自分になっていますか?”

そんな一言で始まった手紙の最後に書かれた文字。

“宮田紗希へ 僕は君が大好きです。20年後、隣で笑っていますか?”

 

それを見て紗希は声をあげて泣いた。

あれから初めて、大きな声で。

 

どれくらい経っただろう。テラスに風が吹き抜けた。

 

「冷めちゃったわね、入れ替えましょう」

ピエールがカップを下げる。

後ろ姿をぼんやりと見つめながら、紗希は空を見上げた。

久しぶりに空が青いことに気づいて、深呼吸する。

 

「はい、どうぞ」

戻って来たピエールが紅茶の入ったカップを差し出した。

添えられたメモに何か書いてある。

 

紗希は手にとってメモを読んだ。

“Hang up philosophy!”

 

(・・これって)

紗希はピエールを見上げる。

 

「物事には違う面があるものよ、紗希」

「・・香那なの?」

「何度もヒントをあげたのに、本当鈍いわね、相変わらず」

ピエールがクスクス笑う。

 

「だって、違うもの」

「あぁ、ちょっと弄ったの。頰のあたり、色々したついでにね」

ピエール、いや香那が涼しい顔で告げる。

「いわゆるTransgenderってことね」

じっと見つめると、懐かしい瞳は変わっていないことに改めて気づく。