NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.8

全てを見透かされている?この男には何も通用しないという事?それとも、不敗の観察眼が曇っているという事なのか?

莉子は困惑した表情を見せている自覚はあるのに、全く制御できないでいた。

 

―やだ、どうしよう、口が開いている。馬鹿な女みたいな表情に見られる!!―

昭人の手がゆっくりと、莉子の方に伸びてくる。

 

「そっちの方が良いですよ。」

 

そういいながら、莉子の肩に優しく手をのせた。

 

「…え?」

「僕は、莉子さんが…隠している素顔に興味があります。」

 

こんなの簡単すぎる。耳の奥で、そう叫ぶ誰かの声が聞こえる。

口元が全く読めない。

 

「なぁんてね…そういう男性が多いんでしょ?」

砕けた口調で、悪戯っぽく笑って見せる昭人の表情が、憎らしくも可愛く見えた。

 

「どういうことですか?小枝子から…?」

「いえ、モテるんだろうなと思って。莉子さんは。」

 

こんな所で、駆け引きに持ち込まれるとは思わなかった。

がしかし、相手の思惑が読めない状態では、ジャブを打つ勇気も出なかった。

 

「モテるって、どういうことを言うのか…いまいち、解らないので。相手の好意の裏側を、私は見てしまうから。」

 

素直な気持ちが口にでる。

相手から欲してくる条件を素直に飲み込めるのか、その対価は貰えるのかを読み解くのが、莉子の信条だ。

 

「見えるって所は、ビジネスマンに向いています。でも、きっと今のままだと、これは差別している訳ではなく、偏見でもなく、あなたは弱いし利用される女性になりそうで、僕は起業をあなたに勧めたくないです。」

 

仕掛けられた?

 

昭人から仕掛けられた罠が、莉子には新鮮で、やはり口元に目が行く。

その時だった、昭人の口元の左側が少しだけ動いた。

 

 

その日は、互いに何かあったら連絡が取りやすいようにと、LINEの交換をして別れた。

別れ際に、昭人が言った言葉が忘れられない。

 

「今日のネイル可愛いですね。最新の流行りですか?」

「いえ…これは、私が好きで試しにやったもので…」

「似合ってますよ。」