NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.8

こんな気持ちは初めてだった。

 

だから…

 

『お願いだから…なんでもいいから…返信が欲しい。』

 

そんな気持ちのまま、スマホを握りしめてベッドに蹲る。

莉子が唯一自分らしく居られるスペース。

 

誰にも穢されたことのない、神聖なる寝所。

 

もし、相手が昭人なら…?招いても構わない。

 

そんな、乙女のような妄想をするようなタイプではなかったが、今はそれでも良いと思えた。

この胸を束縛される感覚が気持ちよいと…。

 

その時、スマホの振動が莉子の体中に響いた。

 

―これで、DMとかだったら…怒るよ…―

ゆっくりと、暗闇の中で光る画面を覗くと、昭人のLINEアカウント名。

『AKITO』の名前が表示されていた。思わず、「ひゃっ!!」と出したことのないような声を出してしまう。

もはや、自分らしさなんてどうでも良かった。恋に恋をしている自分を自覚できていれば、それでいい。

 

LINEを開いてみる。

 

『今日は有難うございました。こちらこそ、楽しかったです。莉子さんが空いている日を連絡くだされば、都合つけます。

 

僕も、もっとお話ししたいです。

今度はビジネス抜きに、ゆっくりと!』

 

昭人の微笑みを思い浮かべて、莉子は自分のネイルにキスをした。

 

 

36歳独身。

高層マンションの上層階に住む、ネイルアーティスト。

人生初の恋の扉を開けると同時に、悪女の仮面に蓋をしようと感じた瞬間だった。

 

 

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悪女が、ただの女になった瞬間!!今まで、簡単に超えたきたその一線への戸惑い。重ねた唇の先へ…莉子は変化を求めた。天然悪女は、落ちたのか?それとも、落とされたのか…?