NOVEL

妻のトリセツ vol.5 ~『友達』の厳選~

 

「いい成績を取って、いい会社に入るんだ。第一、学生なんて遊んでるようなものだ。せめてその中でいい成績くらい取れなくてどうする。いいか、春樹。付き合う人間は厳選しろ。下手な人間ばかりと付き合ってると、自分がクズになるぞ」

 「桃木はクズじゃない!」

 

 ――それは、加奈恵が知る限り初めて見る、春樹の怒号だった。

 一瞬、裕司は怯んだように見えた。が、火に油を注いだだけだ。

 

「親に向かってその態度は何だ!!」

 

 

 裕司は怒って立ち上がった。春樹と睨み合いになるが、その瞬間、昔殴られそうになったことが加奈恵の脳裏に蘇った。春樹が危ない、そう思った加奈恵は、咄嗟に春樹の前に出てしまっていた。春樹が目を丸くする。

 

「加奈恵、そこをどけ」

 「いや」

 「そこをどけと言ってるんだ!」

 「い、いや!」

 加奈恵は震えそうになるのをこらえて、必死にその場から動かないようにした。後ろにいる春樹が、すっと加奈恵の肩に手を置いた。……恐らく、春樹も裕司を睨んでいるのだ。裕

 

司の表情が一層忌々しげなものになった。

 

「ちっ。……母親にばっかりなつきやがって」

 裕司は踵を返し、どすどすと足音を荒げながら自室に戻っていった。加奈恵と春樹は、ほうっと息をついた。

 

 

 ***

 

この時を境に、春樹の裕司に対する態度は変わっていった。

 

そしてこの後、加奈恵は自分たちの家の問題点に、漸くはっきりと気付くのであった……。

 

 

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 桃木さんの件があって以来、明らかに裕司に不信感を募らせていた春樹。それを見かねて加奈恵がとった行動とは!?