NOVEL

妻のトリセツ vol.5 ~『友達』の厳選~

 

「あの、お母さん。本を見せたいから、部屋に行ってもいいかな」

 「もちろん、いいわよ。どうぞ。さ、上がって」

 その時、遅れて裕司が奥の部屋から出てきた。

 

「あなた、春樹のお友達よ。桃木さんって言うんですって。今日は参考書を見にいらしたのよ」

 「ああ、どうも、初めまして」

 「初めまして」

 裕司は一応、といった形で会釈と挨拶をした。

廊下で、桃木さんをじろじろと上から下まで眺めた、その不躾な視線に加奈恵は悪い予感がした。

 

「……ちなみに、桃木さんはどこの高校を目指しているのかな」

 裕司が出し抜けにそう訊ねた。桃木さんは一瞬びっくりした様子だったが、すぐに瑞穂区にある女子高の名前を答えた。

 

「そうなんだね」

 裕司は、ふうん、と返事をすると、それきり彼女には何も言わず、リビングの冷蔵庫を開けると中身を漁った。

「加奈恵、これ食べるから、お茶出してくれ」と、お腹が空いているのか余ったおかずを引っ張り出した。

 

「あ……。はい。……じゃあ春樹、桃木さんを連れて行ってあげて」

 裕司に淹れるお茶を用意する前に、春樹に声を掛ける。春樹は「うん」と返事をしたものの、裕司にいい視線を送らなかった。

 

 ***

 

桃木さんは無事に帰ったが、その後、裕司が春樹に言った言葉は波紋を呼んだ。

 

「春樹。あの子とは縁を切れ。今後親しく付き合うのはやめろ」

 その言葉に、加奈恵も春樹も目を丸くした。

 

「は? ……な、何で? お父さん」

 「何でも何もない。あの子はお前とは釣り合わん」

 「何が……。どういうこと」

 「お前は東海に行くんだろう。どっちにしろ、共学じゃないんだし、今のうちに諦めろ。友人にしろ彼女にしろ、付き合う人間は選ばなきゃいけないんだから」

 春樹は愕然とした表情をしていた。流石にひどいと思った加奈恵が、口を挟もうとする。

 

 

「あなた、ちょっと待って。桃木さんはいい子だし、いくら何でも……」

 「『いい子』だから何だ? 世の中、成績が全てだ」

 その時になって、春樹も加奈恵も、漸(ようや)く裕司は何が気に入らないのか気付いた。

 

――偏差値だの成績だの、そんなことで差別するだなんて!