NOVEL

妻のトリセツ Vol.1 『理想の彼女』の押し付け

 


 

「これって贅沢な悩み?」ハイスぺ男子を彼氏に持つアラサー女子。

 そんな彼女が感じる不安とは?

 


 

 

 

 

 

「加奈恵ちゃん、これ3番テーブルに持って行ってー」

「はい!」

 キッチンで調理された、この店自慢のビーフシチューを丁寧に持ち上げ、それをお客さんの待つテーブルまで運んでいく。

 私、村田加奈恵(むらたかなえ)は、レストランでウェイトレスの仕事をしている28歳だ。今までごく人並みの生活を送ってきて、性格も明るめでごくごく普通だと思う。

 

 けれど、最近は悩みも多い。少し気になるのは、そう――彼氏のことだった。

『加奈恵ちゃんの彼氏、優しそうだね』

 数日前の閉店後、レストランの店長であるおじいさんに言われたことがある。

 奥さんもにこにこしながらその話に乗った。『そうね、だってプレゼントくれたりするんでしょ?』

『そうですね』

 私はちょっと苦笑しながら、胸元の華奢なネックレスを示してみせた。

 『このネックレスも、彼氏が……』

 『あら、やっぱり優しいんじゃない』

 『良かったなあ。彼氏さんに大事にされてるんだね』

 

  そう。付き合って8ヶ月になる、彼――天城裕司(あまきゆうじ)は、ぱっと見は評判の良い、明るい性格をした彼氏だ。加奈恵のことを大事にしてくれていて、実際、プレゼントだと言って色々とアクセサリーなどをくれることも多い。

  けれど、贅沢な悩みと言われるかもしれないけど……。

 (……ちょっと、押しつけがましいって言うか)

  プレゼントは加奈恵の好みのものではなく、いつも“裕司が良いと思ったもの”だった。何も聞かずに突然高そうなものをプレゼントだと言ってくれるので、正直困っている。最初こそ喜んだけれど、加奈恵の趣味に全く合わないので、段々持て余すようになってきてしまった。

 (そもそも私は、高そうなプレゼントとかよりも、思い出を大事にするタイプだし……)

  裕司はいつもそうだ。加奈恵のことを大事にはしてくれるのだけれど、本当は、“彼女を大事にしている自分”に酔っている気がする。

 (……まあ、友達に言ったら、『何それ、自慢?』って返されたけど。本当、贅沢なんだろうな)

 

  加奈恵は溜め息をひとつ吐くと、仕事も終わったということで早めに着替えを済ませる。今日は、少しオシャレをしてきていた。いつもの自分ならあまり着ないけれど、コートの中身は可愛らしいカットソーにカーディガン、ロングスカートにアンクルブーツ。それと、裕司が前にくれたこの華奢で高価なネックレス。

 髪を梳かしてメイクを直し、鏡を覗き込む。うん、悪くない。

 

「加奈恵ちゃん、もしかして今日は彼氏さんと会うのかい?」

  店長がにこにこと話しかけてくる。加奈恵も微笑んで返した。

 「ええ。クリスマスですからね」

 

 ***