NOVEL

勝ち組妻 Vol.3 ~タワマンのクリスマスパーティー~

 

京子初のタワマンクリスマスパーティー! 豪華な会と参加者たちの闇とは?

 


 

前回:勝ち組妻 Vol.2 ~タワマンに住む専業主婦の願い~

 

 

時刻は10時45分。

タワーマンションのパーティールームで開かれるクリスマスパーティーは、思ったよりも賑やかだった。

パーティーモールが奥の壁に下向きのアーチ状に飾られ、その下には金色の雪の結晶型のウォールステッカーが貼られている。

クリスマスツリーは部屋の奥に少しのオーナメントと共にどんと佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

子供の高さに合わせられているのだろうか、そんなに大きくはない。

壁沿いにはミーティングテーブルが連ねられ、白いテーブルクロスが敷いてある。

その上には白や銀の皿に乗せられた料理の数々が鎮座している。

 

―ケータリングなのね。

シェフらしき人が料理のセッティングをしていた。

 

中央には同じく白いテーブルクロスのかかった四角い机が6つほど。

椅子は1つのテーブルにつき6脚並べられていた。

 

―開始まで、もう少しね。

入口で受け取った、ペリエ・ジュエ・ベルエポックをいただく。

グラスに注がれるときに見えたボトルは、白いアネモネが優美に咲くものだった。

その味も、ボトルのイメージ通りに繊細で優雅だ。

 

寒いだろうからとカーディガンを羽織ってきたが、暖房が効いているようで部屋は暖かい。

寒がりの京子にはありがたかった。

全員ここの住人なのだろう、大人から子供までぞろぞろと集まり始めていた。

女性はおしゃれなパンツスタイルの人もいるが、ワンピースの人のほうが多い。

場違いな服装でないことに、京子はとりあえずホッとした。

手持ち無沙汰のため、シャンパンを片手にその場にボーッと立ち、始まるまで会場の様子を眺めていることにした。

 

「わっ!」

突然足に衝撃を感じてわずかに声を漏らす。

驚いて振り返ると、灰色のタキシードを着た男の子と目があった。

紺色のシャツに明るい茶色の靴でばっちりおめかしした姿が、なんだか大人びていた。

年齢は…5歳くらいだろうか。

「すみません…!」

すぐに母親らしき女性が慌てて駆け寄ってきて、子供の手を強めに引く。

「いえいえ、大丈夫ですよ。」

「ほら、拓海もごめんなさいして。」

母親の鬼気迫る様子に、思わず引いてしまいそうになる。

「いやだ!」

子供は母親の手を振りほどき、ツリーの方へ走っていってしまった。

「拓海!」

周りを気にしてか、抑え目の声量だが強い語気で言う。

「もう…。」

母親のついたため息が虚しく消え、京子は胸を痛める。

「大丈夫ですよ。お気になさらないでください。」

声をかけると、母親は申し訳なさそうに謝った。

 


「えー、みなさん。本日はクリスマスパーティーにお集まりいただきありがとうございます。」

11時を回ったころ、主催者らしき人が声をあげる。

「今回もお子様からお年寄りの方まで、多くの方にお越しいただきました。住人同士交流を深め、楽しい会にしましょう。」

 


クリスマスパーティーといっても、ビンゴ大会などの遊びがあるわけでもなく、主に食事を楽しむ会のようだ。

バイキング形式のようで、みなそれぞれ思い思いに料理を運んでくる。

『トリュフ風味のクロケット』

『ローストビーフ 芳醇な赤ワインソースをまとって』

『白身魚のポワレ ブールブランソース』

料理のそばに置かれた札には、明朝体の黒文字でおしゃれな料理名が書かれていた。

―年齢を重ねると脂っこいものは胃がもたれてしまうわ。

ライスコロッケを横目に、生ハムとピクルスの盛り合わせに手を伸ばした時だった。