NOVEL

【錦の女】 vol.3 ~レッドアイ~

しかし仕事関連には未だガラケーを利用していて、絵にかいたような社長だった。

 

井上より無口だが「中島社長は億万長者だからなぁ~」と言われる事に、嫌な表情は浮かべない。

黙っていることで自分の立場を保持するタイプのようだった。

 

そして厄介なのは、中島はレイラを気に入り可愛がっているところだ。

 

中島が一人で来るときは、レイラがつきっきりになる。

噂によれば、中島が来るときはあえて他の客に断りを入れているらしい。

 

指名性ではないにしても、自分の顧客が同時にくれば席を周らなければならなくなる。

それを避ける為に、レイラはこまめに自分の顧客や顧客になりそうな客のスケジュールの把握に余念がないようだった。

 

ボーイの川内君に連れられて、一番奥のゆったりとした6人席を陣取る2人の社長のもとにリナが行くと、井上の酒も既にレイラが用意していた。

 

「井上社長お元気そうですね、中島社長もお久しぶりです」

相変わらず井上は軽口で「なんでも好きな物飲めよ!今日は中島社長の奢りで!」と笑っていた。

 

リナは一瞬迷ったが、中島と井上の真ん中に座るレイラを見て、ママが来るまでのつなぎという認識で、テーブルを挟んだ前にある丸椅子に腰をかけ、ドリンクのセットを自分の方に引き寄せた。

「有難うございます。では、いただきます」

井上と中島の専用ボトルが並んでいる。

 

「中島社長の方で良いよね?」

井上が悪気のなさそうな笑みを浮かべた。

「どっちでも、好きな方を飲めばいいよ」

中島もゆったりと返答する。

 

井上は焼酎が好きで、中島はウィスキーしか飲まない。

店の売り上げを考えるならば、ウィスキーを飲む方が良い。

目の前には膝を独占したペルシャ猫のようにドヤ顔をしたレイラが、リナの動向を見ている。

 

レイラは客の席で客のボトルは飲まない。

必ず自分専用にアルコールを別に頼んでもらうようにしていて、今日はレッドアイを注文してもらったようだ。

元々店にトマトジュースはなかったが、レイラが入店した時にレイラからのお願いで、特別に入荷したのだと川内君に聞いたことがある。

 

リナは視線を今ではもう手に入らない高級なウィスキーに向け、巷で見かけない事を称えて、いただいてもよろしいでしょうか?

と中島に笑いかけた。

褒められる事に満足する相手には、そうするべきなのだ。

 

しかしその時だった。

 

今までリナの動向をただ見ていたレイラが口を開いた。

「リナさん。ウィスキー好きでしたっけ?

あんまり飲んでるイメージないですけど。まさか、水割りとかにしませんよね?」