NOVEL

【錦の女】 vol.3 ~レッドアイ~

夜の女としてのプライドとは?

店という鳥籠の中で守られる小鳥であるのか、それとも飼われている振りをしながら、自分のペースを崩さない気まぐれな猫なのか。

小鳥と猫が対峙する瞬間が、遂に訪れた…。

 


前回▶【錦の女】 vol.2 ~RedROSE~

はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~

 

 

どんなに人気店でも開店すぐに、客が殺到することの方が稀だと言う。

 

それに玲子が勤める【RedROSE】はラウンジという形態をとっているので、基本的には指名という制度を設けてはいない。

ホステスの顧客は、店の配慮で座席に案内されるシステムだ。

しかし、同伴したホステスにバックはある。

 

「何時に客と一緒に入る」と連絡を入れて出勤時間に来ていないホステスもいた。

それでも、店内の広さに見合うだけの女性を常に用意するので、10名前後のホステスを待機させ開店する。

 

夜の店経験者たちは、みんな口を揃えて『この店の待遇が一番いい』と言った。

指名数を争うことも、飲めない酒を無理やり飲まされることもないし、それに対して店側から嫌味を言われることもない。

明確な強要はしないと謳っていても、入店してしまえば見えない圧力が酷い業界だと聞いた。

 

夜の仕事が初めてだった玲子も、全く知らないわけではなかった。

 

玲子にしては消してしまいたい過去の一つ。

ホストクラブに通って居た頃、指名していたユウが月の後半になると愚痴りだしていたからだ。

ホストクラブの方が厳しいそうだが、似たような所はあるのだろう。

 

玲子はそういう話を聞く度に、しょーこママに拾って貰えた自分は幸せなのだと痛感する。

客の入店があるまでは、ホールのソファーで気の合うホステス同士、そんな会話をして過ごすがレイラとその取り巻きは違った。

長く伸ばした爪は常に豪華で、ちょっとした凶器に近い指でスマホを弄って過ごす。

電話がかかってくれば、すかさず控室に入る。

レイラが入店した頃は、店に馴染もうとしない自己中な連中だと思っていた玲子だったが、玲子より古参のホステスであるシホが説明してくれた。

 

「うちはノルマも無いし、何も強制しないママだけど、その上に胡坐をかいているような女の子は続かないのよ。

居場所がなくなるの。お客さんってそういうの見てるから。だから経験者で入店した子たちは、必死に自分の居場所作りの為に客を呼ぶのよ」

 

それを聞いた時、玲子はレイラたちを尊敬した。

しかしレイラの方は、当初から玲子に挑戦的な姿勢を見せた。

 

店ではリナになる玲子だが、リナだけを気に入って惜しげもなく通ってくれるような客はほぼ居ない。

 

それでも【RedROSE】が好きだと言う古い客たちは、リナに気を掛けてくれるし、そういう店の客につかされる事が多い。

レイラの気に障るような事をした覚えはないが、気に食わないという感情にそもそも明確な理由なんて必要ないのだろう。