NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.8

 

高級シティホテルの一室。

酔いに任せて、一夜を共にするなんて今まで一度もなかった。

どれも自分で選んで、きちんと相手として成立する男ばかりだったはずだ。

なのに、まるで呼吸を合わせるように紗夜は男とチェックインし、エレベーターの中で

静かに指を絡ませた。

 

 

ホテルの扉を閉め、明かりなど必要ないとばかりに紗夜と男はそのまま身体を弄り合い

唇を貪(むさぼ)った。男はキスが上手かった、遊び慣れてるなとぼんやりとした頭で紗夜は思う。

男の息遣いが激しくて、それが紗夜の脳内をかき回していく。

今まで紗夜を抱いた男たちを思い出しても、ここまで脳内麻薬を最初から分泌させる男

はなかなかいない。

男は紗夜のストッキングに包まれた足を撫であげた。紗夜もまるでまとわり付かせる

ように太ももに擦り寄る。

がたんっと壁に腕を押し付けられるように、2人は激しいキスを交わしベッドへともつ

れるように倒れ込んだ。

「もう聞かなくてもいいよね」

「聞かないで、抱いて」

口内を激しく犯されながら、紗夜はもうどうなってもいいと思った。

互いに服を脱がしあいながら、今日は良い下着を着てきて良かったと思った。

紗夜の油断ならないところは、そういうところだった。男は丁寧に紗夜の全身を撫で

舐め上げ、紗夜は今まで自分が聞いたことがない程の淫らな声を上げた。

「本当に、さっきと同じ君?」

「うん、だって貴方上手すぎるよ。遊び人ね」

「君が凄く淫らだからだ、興奮...する」

胸元にいくつものキスマークを付けられながら、紗夜はすっかり汗にまみれ意識が

飛びそうだった。

そしてふっとホテルに備え付けている鏡が見えた。

今まで、自分が一度も見たことがないほどの顔をしていた。

頬が高揚して、ただの生き物だった。男が紗夜の口元に添えた薬指をそっと丁寧に

舐め上げる。

自分の中の、新しい自分。

互いに獣のような声を上げながら、紗夜は男に何度も突き上げられ果てた。

窓から見える外はとても寒く、凍えるような風が吹き荒れていた。

翌日、午前7時のアラームに目を覚ました紗夜。

既に男の姿はなく、一人で綺麗に布団が掛けられた状態で深く眠っていた。

ふうと起き上がり、シャワーを浴びにいく。身体がとても重かった。

こんなに激しく身体を重ねられるなんて自分でも驚いた。

綺麗にハンガーに掛けられた衣服を着ながら、机に残されていたメモを見つけた

”昨日はありがとう、またあのバーで出会えたらいいな”

とだけ。

まあ、もう会うこともないから。と紗夜はいつものように化粧をして会社へ

出社した。

また眼鏡を掛け、シュシュで長い髪を隠し地味子を演じる。

坂間とも顔を合わせたが、いつも通りの笑顔で挨拶を交わした。

 

 

それから2ヶ月後、プレゼンの結果が発表された。

祈るように待つ聖奈、余裕のある微笑みを浮かべるリノ、何やら顔色が優れない紗夜

「今回、プロジェクトリーダーの一人に選出されたのは」

紗夜は思わず、込み上げる吐き気を抑えきれずそっとその場を後にした。

「総務部の、小竹紗夜さんです」

そのままトイレに駆け込む。酸っぱい胃液をたまらず戻してしまった。

さっと顔色が変わるリノ、聖奈は仕方ないかと俯く、涼しい顔で拍手する坂間。

場所は代わり、女子トイレ。

そういえば、あれから生理も来ていない。あの時...あの晩、彼は...

 

避妊していただろうか?

 

さっと顔色が変わる紗夜、もしかしたら...もしかするかもしれない。

私は...紗夜はこう思った。

 

名前も知らない男の子供を身籠ったのかもしれない。

 

 

Next:2月7日更新予定

 ワンナイトで見知らぬ男に抱かれた紗夜。だがその後、妊娠の疑いが。望むもの全てを手に入れたはずなのに、一気に谷底に落とされる。そして荒れるリノ、聖奈はアオを意識し始め、アオは自らの道を進もうとしていた。