NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.8

見知らぬ男に酔った勢いで全てを吐露する紗夜。

そして不思議なバーオーナー・アオとお茶する聖奈、それぞれの人間関係がゆっくりと動き出す。

そして数ヶ月の選考後、遂にプロジェクトメンバーが選出された...。


前回:「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~vol.7

 

高層ビルの高級バー。

紗夜は新たなカクテルを待つ間、名前も知らない男に今の自分の気持ちを吐露していた。

一度語り出すと止まらない、だが男は何も言わず、じっと耳を傾けてくれた。

「彼とその上司のキス、ショックだったの?」

まるで子供をあやすように、男は尋ねた。

「....分からない」

 

嘘だ。

紗夜は、目の前でライムが敷き詰められたモヒートをぼんやり眺めながら答える。

リノに、あのお局に、自分よりも明らかに仕事もできず会社のお荷物社員で評判のあの

女に、坂間の唇を悪戯(いたずら)に奪われていたのが、どうしてもプライドが許さなかったのだ。

どうして、あんな女?

紗夜は自分を「知っている」からこそ、非常に傷ついていた。

モヒートを飲み干すと、男に礼を告げ勘定をするため立ち上がると視界がゆらめく。

スマートな手が紗夜を支えた、左手には指輪はない。

「立てる?」

紗夜はぼーっとした頭で、酔っているな、自暴自棄だと感じた。

勘定を済ませる男をじっと見る

「どうしてご馳走してくれたの?初対面なのに」

「今の状態で、貴女がとても財布からお札を出せるように見えなかったから」

クスリと笑いながら、男が答えた。

 

「これから、どうする?」

 

その答え、紗夜は既に分かっていた。

寂しさは、寂しさで埋めるしかない。

ベージュのジェルネイルが男性の細い指にそっと絡む。紗夜より背が高い顔はあえて

見上げなかった。

 

「さあ...どこか連れてってよ、楽しいところ」

 

指が静かに絡んでいく。

 

「分かった、僕についてきて」

ふらつく紗夜と男が、閉まるエレベーターへ静かに消えていった。