NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.5 ~二度と戻ることは出来ない過ち~

 

「こちらこそ、ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」

 

佐伯は、九の時にお辞儀をした。

 人生の歯車を掛け違えてしまい、決してやり直すことは出来なくても、今できることを見つけることは可能だ。

 

「あなた…それ、自己満足でしかないわよ」

 リナは痛烈な批判が、佐伯に向けられる。

 

「青いバラが500円な訳ないでしょ!」

「ええ…」

 

でも、あの客にとっての500円がこの薔薇の価値に相当すると佐伯には思えた。

商品の価値とは、それぞれによって変わってくる。

 

 

娘の為に、彼が今払える500円とは、リナが払おうとした5000円、仲井が払った1万円と何ら変わらない気がしてならなかった。

 

「よくやっていけるわね!」

 佐伯は苦虫を嚙みつぶしたように笑うと、カップを片付け始めた。

 

「この店は、こうありたいと思っているので」

 佐伯の穏やかな声が店内に響いた。

 

リナの記憶にある〝アキラ″はビルに飾られている大きな看板に、挑発的な笑みを浮かべて掲載されている姿でしかなった。

 甘いビジュアルを武器に、トップ争いに名を連ねる栄四丁目の女子大小路にある『マリネス』の顔だったはずだ。

 

何時から、こんな風になってしまったのか?

実際に顔を合わせる事はなかったが、想像と違いすぎて肩透かしを食う所だった。

 

その時、外から何かが破裂したようなけたたましい音が聞こえてきた。

 佐伯が慌てて外に駆け出す。続いてリナが弟を奈緒に抱かせ、此処にいるようにと念を押して出て行った。

 

そこには…!

 

カートが転がり、乗用車がガードレールに追突していた。

 『救急車だ!誰か救急車を呼べ!』

 誰彼ともなく騒然としていた。

 

青いバラが、鮮血に浸っている。