NOVEL

錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.5 ~二度と戻ることは出来ない過ち~

一輪の青い薔薇を買いに来た男性。

その想いとは・・・

 


前回:錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.4 ~誘惑の多い町にある真実~

 

~青い薔薇~

二度と戻ることは出来ない過ちを後悔するのではなく、今できる道を選ぶこと。

ただ、『感謝』を贈りたくて、一輪の青い薔薇を握り締めた。

『不可能な事を成し遂げる』あなたに、奇跡と神の祝福を…

 

 

佐伯は奈緒に、コリウスの植え替えを伝授していた。

床にシートを引いて、軍手を渡し、なるべく奈緒にやらせるように心がける。

 

金木犀しかり、このコリウスしかり、店内にはすっかり肥料の香りが蔓延していたが、それに負けないくらいに金木犀の自己主張も強い。

 器用に土を扱う奈緒を横目に、時間を忘れ作業を教えていると、勢いよくリナが飛び込んできた。

 

その姿を見ても、佐伯が驚くことはない。

リナは三歳くらいの子供を背負っていた。

 

「遅くなって…」

 リナは複雑な表情を浮かべていたが、それが店頭に飾られた金木犀の花束の事を指しているのか、赤子を連れてきた事なのか察することは出来ない。

 

「おかえりなさい」

 佐伯は優しく微笑んで迎え入れる。

 リナも何があったのか探ることはしなかった。

 

「奈緒ちゃんは、器用ですね」

 佐伯が声を掛けると、リナは少し嬉しそうに笑んだ。

娘が楽しそうに鉢植えを掲げている姿を、親として愛おしく見つめる構図は魅力的だった。

 

―この親子は、大丈夫だな…―

 

植え替え作業もひと段落するのを見届け、奈緒と弟にはココアを、リナにはコーヒーを用意して振る舞う。

 嬉しそうにコリウスを見つめる娘に、母の視線を送るリナは少し大人びて魅える。

12歳になる娘がいるのだからそれなりの年齢ではあるだろうが、リナの些細な仕草が彼女の年齢を不明にさせる。

 

―カスミソウの君が望んでいた未来は、こんな優しい空間だったのかのかなぁ…―

 

親子には気付かれないように、口許を歪めていると、入り口の自動ドアが静かに空く。