NOVEL

絶対美脚を持つ女 vol.6~現実と夢の間~

添付されていた物件は全部で5件。

 

神崎の選ぶ物件はどれもセンスがいい。

それも、わざわざ居抜きで使えるところを選んでくれたようだった。

 

ゼロから全工事をするとなるとその分必要経費もかさむ。もちろんそれができれば理想通りのものが出来上がるのだろうが、現実的に今のナルミにそこまでの余裕はなかった。

神崎はナルミの夢をふんふんと聞くだけ聞いて資金のことは一切突っ込んだ話をしなかったが、やはり見抜かれているのかもしれない。

 

時計を見ればまだ歯医者の到着時刻には少し時間がある。

ナルミはスマホの履歴から神崎の名前をタッチした。

 

『はいはい』

『神崎さん、遅くなってごめん。ちょっとハプニングがあって』

『あぁ、別に良いよ、どうせ疲れて寝ちゃったとかだろ』

 

軽口を叩く神崎に、またもマウントを取りそうになってナルミは自制した。こういう負けん気は大人の女性に不要なものだし、何より有名人に会ったことを喜んで報告するような女にはなるまい、というプライドがあった。

それに、あの時間はまだ自分の心に仕舞っておきたいような、少し甘い感覚もある。

 

『とにかく、今全部物件見たの。メールより電話が早いかなって』

『で、絞れた?』

『うん、立地から久屋大通と、代官町のところはもう少し考えたいからストップしておいてほしい。いつまで待てそう?』

『あー、その2つならおれの個人的な知り合いが持っているところだから、事情話せば余裕あるよ』

『本当?助かる。ちなみに家賃の交渉はできそう?』

ナルミが尋ねると、神崎は『おれを使いすぎんなよ』と小言が返ってきたが、結局うまく事を進めてくれるのが神崎という男なのだ。

 

『まぁ、あんまり期待せずだが、多少はサポートしてやるよ』

『その際にはお礼させて頂きます』

『なら……』

『体以外で』

『なんだよ、まぁいいけど』

 

いつも通り恩を売ったからと執拗に迫ってこない神崎に、ナルミは笑った。

 

『神崎さんってほんといつも隙あらばそれ言うけど、諦め早いよね』

『見極めは誰にも負けねぇ自信あるから。で、内覧するよな? 急ぐなら手配しとくけど』

 

ナルミが今分かる範囲で予定のない日をいくつか伝えると、『分かった』と神崎は手早く電話を切った。