NOVEL

絶対美脚を持つ女 vol.6~現実と夢の間~

「そのブーツより似合う靴、見つけたら送るよ。またね、ナルミさん」

新幹線の中で席を立つ前に、男はそう言った。

まさかそれを鵜呑みにするほど世慣れていないわけではなかったが、ナルミはどこかで期待している自分がいた。

 


前回▶絶対美脚を持つ女 vol.5~人を惹きつける脚~

はじめから読む▶絶対美脚を持つ女 vol.1~夢を語る女~

 

「あ、今度会う時はパンツスタイルでお願い」

 

最後に男はこう付け足して、減速する新幹線の中自席へ戻っていった。

 

今度もし会うことがあれば……。

ナルミは高揚していた気持ちを落ち着かせる。

 

相手は今一番と言っていいほど人気の俳優だ。

いくらナルミの脚が特別なものであっても、芸能界は華やかで、何よりナルミが昔選ばれなかった場所である。だから、あえて連絡先を交換したもののメールを送ることはしなかった。

自分から送って返事が返ってこなかったら、思いのほか落ち込んでしまいそうで、サロン立ち上げの夢に向かっている今、そんな感情に振り回される心の余裕などないのだ、と自分に言い聞かせた。

 

東京駅は名古屋とは比べ物にならないほど人が多い。

時間を潰せる場所を探して、カフェに入って歯医者を待つことにした。

 

さっきの男と会話を交わしたあとでは、今日会う初老の歯医者の男など霞んでしまいそうだったが、今日の会食は美容業界で名の知れた外科医やヨガの世界では知らない人がいない人気インストラクター、エステサロンのオーナーなど、ナルミが知り合いたい人間が何人も参加すると聞いている。

しかも貸し切りで席は10席のみ。

カウンターではあるが、ゆっくりと落ち着いて会話を楽しめるようで、ワイン通の主催者が用意した特別なワインも用意されているという。

 

「ナルミちゃんのヒントになる話も聞けるんじゃない?」

 

そう言って、ナルミのサロンオープンの夢を知っているその歯科医が招いてくれたのだ。

 

「やっぱり懐の深さとお金の余裕って比例するのかしら」

 

ナルミはエルメスのブーツと今夜の会食に感謝しながら、新幹線の中でチェックし損ねていた物件を確認した。