NOVEL

踏み台の女 vol.10 ~真実~

アユミが呟くと、牧野は否定しなかった。

 

「私も利用されたうちの一人だからそんなに気落とさないで。ま、これ励ましになるか分からないけど」

 

アユミの肩をポンと叩き、牧野が笑う。

 

「え? それって」

「あいつと付き合ってたの。といってもそう思ってたのは私の方だけだったみたいだけど。年下のイケメンが彼氏になったーなんて浮かれてる間に、私が今まで作ってきた人脈全部持ってかれちゃった」

「……え」

「ねぇ、プライベートで今神尾と連絡取れないでしょ?」

 

次から次へと牧野が驚くことばかり言うので、アユミは言葉を受け取るだけで精一杯だ。


「それは……。ていうか、付き合ってたって……私、神尾さんと二人でデートしてたんですよ? 誕生日にも素敵なレストラン連れてってもらったんです」

 

神尾と二人で過ごしたあの楽しい時間が記憶に蘇り、アユミは突っかかるように牧野へ言い募った。

 

「うん、知ってる。道野さんとデートした日は大抵そのまま、神尾私の家に来てたから」

 

アユミは目を見開いて今度こそ言葉を失った。

 

「ごめんね、イヤなことばかり言って。私ももう用済みってことでつい数日前にプライベートの連絡先はブロックされちゃったのよ」

 

牧野は最後に「今度飲みにいこっか」とアユミに声を掛け自席へ戻っていった。

 

 

『神尾さん、私のこと全然好きじゃなかったんですか?』

いても経ってもいられなくなり神尾へラインを送ったが、やはりいくら待っても返信はなかった。一か月前に送ったラインも未読のままなのだ。

今年の冬が始まった頃は神尾と付き合うとばかり思っていたのに、牧野の話が本当だとしたら、自分はなんてバカだったのだろうか。

 

アユミは返信のないラインを眺めるのに飽きて、スマホの画面をタップすると神尾の連絡先を削除した。

たった5秒の動作で、もう二度と神尾とやり取りをすることがないと思うと、やはりただ待つよりもずっと気分がいい。

そのままその指で牧野にラインを送る。

 

『牧野さん、女二人で今度飲み明かしたいです。それと……一緒にもっといい男見つけましょ』

 

すぐに牧野から『オッケー、じゃあ明日行くよ!』と返事がきて、あまりの速さにアユミは吹き出し、こんな風に笑えるならまだ大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。

 

 

END

 

 

前回の話▶踏み台の女 vol.9 ~ずれていく感覚~

はじめから読む▶踏み台の女 Vol.1 ~アユミの気持ち~