202X年7月16日 日曜日 午後4時
「だから、おかしいでしょ」
純也が憤慨したようにテーブルを軽く叩く。
ここはピエール、つまり香那の部屋。
いつものルーフテラス。
南向きのソファに紗希を真ん中にして右手に純也が、左手に香那が座っている。
「あら、全然おかしくないわよ」
香那が冷ややかに言い放つ。
「紗希ちゃん、どういうこと?」
純也に詰め寄られ、紗希は戸惑っている。
「やめなさい、紗希はまだお子ちゃまなんだから」
香那が純也の手を軽く叩く。
「ほら、紗希。好きでしょう?」
ゴディバのチョコレートを指で掴むと、紗希の口元に運んだ。
「あ〜もう!そういうの禁止!」
今度は純也が香那の手を止めた。
「だいたい、ピエールはだめでしょ!」
「あら、どうして?何か問題?」
「そう言うことじゃなくって、僕の方が先だよね!」
「恋愛に順番なんてないでしょ?ていうか私の方が先よ」
「・・・!!」
どうやら二人は真剣に紗希を奪い合うつもりらしい。
紗希はというと、どちらとも言えない。
恋愛に不慣れだと思ってきたけれど、自分の中にも「好き」という気持ちは確かにあった。
誰かのために自分を見失うなんて、と思ってきたけれど。
自分こそ「克哉との約束」のために頑張ってこれたんだと思えたから。
この先、どうなるのか分からないけれど、また前を向ける気がする。
「ねぇ紗希ちゃん、僕だよね!」
「あら、急ぐことないわよ、紗希。なんなら二番目でも」
二人の掛け合いを聞きながら、紗希は久しぶりに声をあげて笑った。
―The End―
はじめから読む:運命の輪 vol.1~動きだす“時間”~