NOVEL

夫婦のカタチvol.6~すれ違う想い~

-康平の溜め込んだ想い-

 

出張も今日で最終日。

駅に着く頃にはあたりは真っ暗になっていた。

在来線に乗り換えまっすぐ家路につくつもりでいたが、せっかく明日は仕事が休みということもあり、足が自然とバーに向かう。

 

小さなエレベーターを上がり重たい扉を開けると、今日は休日ということもありカウンターには数名の先客が、グラスを片手にマスターと話していた。

 

僕だけがスーツ姿だったからか隣に座る1人の男性が声を掛けてきた。

「土曜もお仕事ですか?お疲れ様です!」

 

俺と同世代で多分23歳上くらいの男性の服装は、一見カジュアルだが時計や靴、鞄などちょっとした小物のセンスからそれなりに良い仕事をしている。

自分と同じグレードで暮らしている人だとすぐに察しがついた。

 

一通り世間話をしたところで男性のスマホに映る子供の写真が目に止まった。

男性には勇希より2歳上の息子がいるらしい。

男性は子供の話になるとさらに饒舌になり、俺は一、ニ杯サクッと飲んで帰るつもりが気づけば何杯か付き合っているうちに酔いが回っていた。

 

普段の酒の席ではスマートに振る舞う自分が、この日は溜め込んでいた日々の想いが酒に乗せられて溢れ出るのがわかった。

 

俺もこの男性もお金とキャリアは手にしている。

俺だってこの男性と同じように結婚もして子供もいるのに・・・肝心な温かい家庭がどんどん遠のいていく日々・・・。

 

「俺は金銭的にもキャリアも恵まれているのに、なんで一番手に入れたい家庭の幸せが手に入らないんでしょうね」

出会ったばかりの男性に愚痴を溢すほど心のシコリはいつしか大きくなっていた。

「妻はもう立派な母親になっているのに。自分だけが取り残されていくようで」

 

男性にも過去に思いあたる節があるのだろうか。

ただただ受け止めるように俺の話を聞くと

「本当の父親になるには、まずは素の自分で奥さんと向き合う事からですよ」

と言い、大きな手で肩を叩いた。

 

気づけば0時を回っていた。

俺と男性は最後のスコッチを流し込む。

「帰りはどちらまで?」

と聞かれ答えると、男性は驚いた顔で笑った。

「まさかのすごい偶然! 同じマンションにお住まいだったなんて。それじゃあ帰りは同じタクシーで帰れますね」

と驚きの返事が返ってきた。