NOVEL

2番目の女 vol.10 〜既読にならない週末〜

「真っすぐに生きるで、真生」

 

自分の気持ちに真っすぐに生きてほしい、そんな思いで名前を決めた。「どうかな?」と大輔くんに聞くと「良いと思う、友梨さんっぽい」と笑顔で頷いてくれた。

 

「真生」

 

腕に抱えたまま名前を呼ぶと、小さな手で私の指を掴んだ。そして笑顔を見せる真生。素敵な夫と可愛い子供に囲まれた幸せな生活の始まりだ。

 

真生が生まれてから2年後、私たちの間には男の子も生まれた。大輔くんがつけた名前は「健(けん)永(と)」だった。いつまでも、健康で元気に生きてほしいという思いが込められている。

2人の子供を育てながら、私も大輔くんも仕事は続けていた。私は会社の育児支援制度を活用し、短時間勤務とリモートワークを使って家族の時間を作っている。大輔くんも私の仕事が繁忙期の時には育児休暇を活用してくれて、まさに二人三脚で育児に挑むことができた。

 

こんなに家庭に協力的な人と一緒になることができて、とても幸せだ。周りからも羨ましがられることが多いし、それだけ大輔くんが特別な人だということがわかる。

 

もっと早く、大輔くんと出会えていたら。

きっと大輔くんと早く出会えることができていたら、今よりもっと早く幸せな家庭を築けたかもしれない。だけど、今のタイミングで出会ったからこそ、お互い精神的にも大人な状態で関係を築けているような気もする。

 

翔太のことは、結局大輔くんに話すことはできなかった。二次会の前に私たちがどんな話をしていたかも聞いてこないし、私から伝えるつもりもない。私の黒歴史は私の胸に留めて、墓までちゃんと持っていくつもりだ。

 

今の私にとって、大切なのは大輔くんと真生、健永。この家族で一緒にいられたら、それだけで幸せだ。かけがえのない、宝物。

 

 

「お母さん、見て!」

 

大輔くんと結婚してから25年。今日は娘の真生の結婚式だ。まさに、あっという間の時間だった。気づいたら、真生も健永も成人していた。そんな真生は24歳で、高校の頃から付き合っていた男性と結婚をすることになった。

「お母さんが着ていたのと同じドレスが着たい」と20年以上も前の結婚式の写真を引っ張り出してきて、自分の結婚式のドレスには同じものを選んだ。それくらい家族思いの良い子に育ったのだ。

 

真生のドレス姿はとても綺麗だった。そして、自分の結婚式も思い出させる。幸せのスタートだった結婚式。まさか、自分の子供の幸せな瞬間に立ち会える日が来るなんて、大輔くんに出会うまでは想像もしていなかった。

 

「真生さんのことは、僕が幸せにします」

 

真生が選んだ結婚相手も、大輔くんに似て凄く素敵な人だった。私も大輔くんも、彼なら任せられると即決だった。むしろ反対したのは、健(けん)永(と)の方。きっと、お姉ちゃんが誰かに盗られるのが寂しく感じていたのだろう。

「本当に良い奴?姉ちゃん騙されてんじゃねえの?」なんて何度も確認をしていた。口は悪いが、健永も家族思いの優しい子だ。きっと健永も、真生に続いて幸せな道を歩んでくれると思う。現にきちんとお付き合いしている女性もいて、話を聞く限り真面目で良い子のようだ。

 

「それでは、新婦の入場です」

 

盛大な拍手とともに入場してくるウェディングドレス姿の真生。そしてその隣で涙を堪えている大輔くんの姿。思わず笑みが溢れる。

 

付き合った頃から変わらず、幸せでい続けられたのは大輔くんがいたからだ。そして真生、健永の存在も大きかった。こんなに幸せな日常を送らせてくれた家族には、感謝しかない。

きっとこれから先、健永も結婚して私と大輔くんの2人で過ごす日が来ると思う。「熟年離婚」なんて言葉を聞くこともあるが、私たちとは無縁の言葉だ。それくらい、大輔くんと一緒に過ごす日々は幸せで楽しくて、永遠に続いてほしいものである。