NOVEL

彼女がいても関係ない vol.3 ~女子社員同士の脆く危い関係~

 

後ろに居たのは年の頃は25歳前後。まず非凡な容姿で人目を惹く女性だった。

透けるように白い肌と大きな瞳、肩にかかる柔らかな巻き毛が何とも言えない美しさを放っている。

 

(まるでビスクドールみたい)

 

ひとみは同性ながら彼女を見て素直にそう思った。

 ちらっと視線を走らせると斜め向かいでやり取りを聞いていた礼子が一層厳しい視線を向けていた。

 

「こちらは?」

桐生が桜井に尋ねると、女性が一歩進み出て答えた。

 

「御室 珠莉と申します。本日付で桐生部長のアシスタントに任命されました。よろしくお願い致します」

鈴がなるような声とはこのことだろう。明瞭でいて心地よい声色がフロアに響いた。

 

「しゅり、さん?珍しいお名前ですね」

「はい。よく言われます」桐生の問いに微笑で答える。

 花がほころぶ、とはこのことか。

絶世の美女と呼ばれた楊貴妃やクレオパトラはこんな女性に違いない、と思わせる魅力が御室珠莉にはあった。

 

「桐生です。こちらこそよろしくお願いします」

桐生が立ち上がって珠莉と握手を交わす。

 

 

フロアに居た全員がため息を付く。

女性社員は桐生への距離がさらに遠くなったことに。

そして男性社員はせっかくの美女には全く近づけないだろうということに。

 

 

●女たちの画策

 

いつもの昼休み。

7階の社員食堂では営業1課の女性社員が集まっていた。

 

「あの人は制服じゃないんですね」

不満気に言葉を発したのは乃亜だった。

 10月初旬に配属された桐生の補佐を務める御室珠莉のことだ。

 

仕事は桐生の専属アシスタントのようで四六時中、一緒に行動している。

通常、女子社員は制服が貸与され着用するのだが珠莉は外出も多いことから私服で通していた。

傍目でも一流ブランドのスーツとわかるデザインと素材が珠莉の愛らしさを引き立たせている。

 

そのことに少なからず不満を抱いている女子社員は少なくない。

乃亜もそのひとりだった。