NOVEL

勝ち組妻 Vol.5 ~夫婦の閉ざされた悩み~

 

「夏の夜空がきれいだったなあ…。」

 

「素敵なプロポーズですね。それは、うれしいでしょうね。」

 

「とても。この人とずっと一緒に暮らせる、とうきうきしていました。」

 

若菜はラウンジの隅から隅の窓を見渡す。

 地上27階に位置するラウンジから見える景色は、遮るものがほぼなにもない。

 

「このマンションも一緒に選んだんです。結婚したら、ここに二人で住めるね、って。ゆくゆくは、子供ができても安心して育てられるね、って。…結婚して、数か月は楽しく過ごしていました。」

 

 

「旦那さんが、単身赴任されたのね。」

 

若菜は無言でうなずく。

 

「わたしは、ついていくって言ったんです。寂しがりっていうのもあるし、せっかく夫婦になったんだから、一緒にいたいって。最初は、夫もできればそうしたいって言ってくれていたのですが、海外に住めばわたしのストレスも大きいだろう、って結局残るように説得されてしまいました。」

 

「旦那さんはいつ帰ってくるのか、目途はついているの?」

 

「彼も、1年に数回は日本に帰ってくるんです。それでも、半年に1回くらいかな…。今度はいつ帰ってくるのか、わかりません。連絡もなかなかとれなくて。」

 

聞けば、旦那さんは外資系商社に勤めているらしい。

 年収も、軽く2,000万円は超えるはずだ。

 日本を遠く離れた生活に加え、成果主義の仕事のプレッシャーは相当だろう。

 

「それは寂しいね…。旦那さんの仕事が終わったころに電話してみたら?」

 

「何回かかけてみたんですが、仕事が忙しいのか、出てくれないんですよね。…浮気とかしてたら、いやだな…。」

 

うつむきながら、手の甲をひたいにあてる。

 さらさらと、サイドの髪が若菜に寄り添うように垂れてくる。

 

「大丈夫よ!聞いた感じ、旦那さんは浮気するようなタイプではなさそうだし。」

 

「うーん、そうですよね…。」

 

若菜は自虐的に笑う。

 

「夫と結婚したときは、玉の輿だと周りからうらやましがられて、わたしもなんだか得意になっていたのに。すっかり安心しきっていました。…本当に、幸せってなんでしょうね。」

 

泣きそうな顔で笑顔を作る。

 

「好きな人と結婚して、一緒に過ごす時間を大切にする若菜さんにとって、旦那さんと離れて暮らすのはつらいことよね。気持ちわかるわ。そうね…。何か、習い事をしてみるとかはどうかしら。今、ずっと家にいるの?」

 

「会社は辞めずにまだ働いています。結婚してからは、週4日のパートに切り替えてもらったんです。会社の人とは、あまり交流がないですけど。」

 

「そうなんだ。人と交流がないなら、なおさらどこかで気分を紛らわせる場所を作らないとね。」

 

「習い事か…。調べてみようかな。」

 

「うんうん。いいね。今は何でも選べるから楽しいね。」

 

にこっと微笑むと、若菜もうれしそうに笑った。