NOVEL

運命の輪 vol.3~時を告げる鐘~

202X年5月7日 日曜日 5時PM

ポーン、ポーン・・店の時計が5度、軽やかな音を立てる。

「あら、もうこんな時間?」

手首の時計に目をやった由衣は、時間に気づいてため息をつく。

 


前回▶運命の輪 vol.2~途切れた糸~

 はじめから読む▶運命の輪 vol.1~動きだす時間

 

文字盤の周りのダイヤモンドが光る。

“パルミジャーニ・フルリエ”。

母のクローゼットで見た覚えがあった。

近ごろは腕時計をしている人は職場でも珍しい。

少し懐かしい気がして見つめていると視線に気づいた由衣が応える。

 

「携帯で時間は分かるけれど、時計が好きなの」

 

確かに細い手首にホワイトのベルトが似合っている。

ブレスレットより時計が由衣には似合う、と紗希は思った。

 

「このあと、サロンの予約があるの」

由衣は栄の美容院でカットの予約を入れているのだと言う。

「そう、じゃあ。今日は解散ね」

紗希がそう返すと、名残惜しそうにしていた由衣が唐突に言った。

「そうだ!一緒に行かない?」

「・・サロンに?」

「そう!いつも予約でしか行けないお店だから、空いていると思うわ」

 

急に誘われて紗希は少し、考える。

ヘアスタイルは長年、変えていない。

もともとストレートなので、いつも同じ美容室で毛先を整えるだけ。

勉強や仕事も、プライベートもずっと同じ。

決まった道をただまっすぐ進んできた。

疑問を持ったことのない人生。

立ち止まって振り返ると、急に色あせて見えるのはなぜだろう・・。

 

視線をあげると由衣が真っ直ぐ見つめている。

 

「そうね、行くわ」

紗希は思い切ったように、そう答えた。

 

母には短いメッセージを送る。

“遅くなります。食事はいりません”

連絡はいつも敬語。

小学校のころから変わらない。

母からの返信を見たくなくて、カバンに携帯をしまい込む。