NOVEL

運命の輪 vol.3~時を告げる鐘~

「紗希ちゃん、可愛い!」

由衣が目を輝かせる。本気で褒めている表情だ。

 

「なんだか、自分じゃないみたい・・」

首を左右に振って、髪がサラサラなびく様子を楽しむ。

落ち着かない、というのとは違う。

くすぐったいような、ワクワクする感じ。

 

「お気に召した?」

ピエールが鏡ごしに瞳を覗き込む。

「ええ、とっても」

「それは、よかった。本当、お似合いよ」

ピエールが満足げに答える。

 

由衣も覗き込んでくる。

「ね、紗希ちゃん。次はお洋服を見に行きましょうね!」

「え?」

唐突な由衣の言葉に戸惑う。

「だって、折角イメージチェンジしたんだからお洋服も変えないと!」

確かにこれまでのヘアスタイルだと洋服も紺か白。

形もオーソドックスなものばかりだ。

 

「来月の同窓会までに」

20年越しの同窓会は来月の下旬。

それまでに変われるかしら、と紗希は鏡を見つめ直した。

 

「そうね、行こうかな。見立ててくれる?由衣ちゃん」

「もちろん!」

 

バッグを受け取り、会計を済ませて外に出ようとした時。

「これ、登録してちょうだいね。予約もこちらからどうぞ」

ピエールに1枚のカードを手渡される。

見るとLINEIDが書かれていた。

 

「紗希ちゃん、よかったわね!お気に入りの人にしか渡さないのよ」

「あら、由衣ちゃんのお友達だからよ、もちろん」

ピエールが言い訳のように返す。

「それだけ?ピエール、紗希ちゃんみたいな子、好きでしょう?」

「さぁ?それはどうかしら?」

二人の楽しげな会話を聞きながら、手元のカードに視線を落とす。

 

“La Roue de Fortune”

 

運命の輪が回り始めた音が聞こえた気がする。

両手で掴んだカードを紗希は大切にバッグにしまった。

 

 

Next:628日更新予定

髪を切った当日、自宅へ帰ると母親に怒鳴りちらされ、その日のうちに家を出た紗希はマンションを購入することに決めた。