NOVEL

noblesse oblige vol.5~悔恨と懺悔~

カラカラと風見鶏が回る音が響く。

いつの間にか嵐は過ぎ去っている。

梅雨明けの一夜。

激しい雨は何もかも押し流して再び静寂な夜が訪れている。

 


前回▶noblesse oblige vol.4~仄暗い闇の中~

はじめから読む▶noblesse oblige vol.1いつもの夕暮れに~

 

庭木が揺れるのがガラス越しに見える。

ゆらゆらと月明かりに映る枝葉。

その姿があの日の白樺を思い起こさせる。

胸が詰まる気がして静音は深く息を吸い込んだ。

 

  • 回想 〜断ち切れない鎖〜

 

ゴンドラを降りて駅の外に出ると風が吹き抜けた。

カフェテリアを出たときより天候は荒れてきたようだ。

まだ辛うじて視界はあるが心許ない。

 

「沙耶香、行ける?」

「ええ、平気」

声を掛けられた女性はグローブをはめながら、頷いている。

 

「瑞穂、大丈夫?」

すべて彼女に任せるといった顔つきで友人に尋ねられている。

「まぁ、私は」

 

(? 私は、ってどういう意味かしら)

少し気になって声の方に視線を向ける。

瑞穂と呼ばれた女性は静音の方を見つめていた。

 

射るような視線から逃れ難い。

瑞穂が柔らかな、けれど凛とした声で話しかけてきた。

「あなたは引き返した方がいいわ」

唐突に言われ、戸惑う。

答える間もなく佳奈が口を挟んだ。

「やだ、あなた何でそんなこというの?大丈夫よ。ねぇ、静音」

 

嫌な予感はあった。

本当ならそれに従うのがいつもの静音だったのに・・。

 

帰りの時間も気になるし、佳奈を説得するのは骨が折れそうだ。

そんな理由で決断してしまった。

 

「ゆっくり行きましょう」

決心したように呟いた静音を見て、瑞穂は軽く息を吐いた。

「気をつけてね」

その言い方が祈りのようで、静音はもう一度瑞穂と視線を交わした。

 

「天候が悪くなっております。みなさまお気をつけてください」

スタッフの声に押されるように外に出る。

 

ひとつ前のゴンドラに乗っていた大学生らしいグループも滑り出した。