NOVEL

【新連載スタート】noblesse oblige vol.1~いつもの夕暮れに~

 

昨日まで縁もゆかりもない3人の美女・沙耶香、瑞穂、静音はある事件をきっかけに偶然、出会うこととなる。

その出会いに翻弄されてゆく3人の運命は…⁉

 


 

シーン1 沙耶香の場合

 

(もう!また?)

心の中でそう呟きつつ沙耶香は少し乱暴にキーをたたいた。

「どうかした?」

横に座っている後輩の加奈が小首を傾げながら聞いてくる。

(こういうとこ、あざいとのよね)

ちょっと右に首を傾けながらあどけない表情を作っている。

 

短大卒で入社して2年目。

色白で大きな目。

綺麗に巻いた髪。

文句なしに可愛い、が似合う年頃だ。

 

(悪気ない素ぶりでこっちのちょっとした変化を突いてくるのよね)

 

男性の目からすれば「気のつく可愛い子」としか映らないだろう。

こんな見方、偏っていると言われればそれまでだけど、間違ってはいない。

実際、周囲に男性社員がいないときには声をかけては来ないのだから。

 

少しイラッとしながらも、沙耶香はにっこり笑顔で返す。

「なんでもないわ、ありがとう」

沙耶香の隙のない笑顔を見て、一瞬、無表情になったものの、敵もさるもの。

「よかった!」笑顔で返してくる。

 

お互い、長い女子歴から処世術はしっかり身についている。

 

沙耶香は前を向き直すと、何事もなかったようにパソコンの画面を見返した。

 

【前回のファイル、修正をお願いします 営業 野中】

 

社内から送られてきた一通のメール。

添付ファイルは一昨日、完成チェックをしたファイルだ。

 

野中真司。営業部の若手社員。確か慶應義塾大学卒業だっけ。

関東からわざわざ東海圏へ来るなんて、変わっている…。

そんな風に思いながら、自分だって同じだとため息をついた。