NOVEL

【錦の女】vol.10最終回~スタートライン~

ママは、玲子を見つめている。

何か、言わなければ…焦れば焦るほど声が出ない。

 

「リナちゃん。夜の女はね…いつまでも席に座っていることは出来ないのよ。

私だってそう。いつかは、この席を誰かに譲る時が来る。

だけどね…その日を待つんじゃなくて、自分で決める覚悟も必要なの。

貴女は自分には何もないと言ったけど、あなたにはアロマセラピストの資格があるじゃない。丁度いい関係かもね」

 

入店してすぐの頃。

玲子にママは似たような事を言っていた。

 

『夜の仕事は永遠じゃないから、子供の為にも期日を決めて働きなさいね』

 

今追いかければ、間に合うかもしれない。

 

『玲ちゃんは幸せだね』

と微笑んでいた、幼い頃の『りな』ではないにしても、自分から彼女を遠ざけたにしても…。

欲しくても得られなかった、普通の仕事を掴めるかもしれない…!

 

都合の良すぎる思考が過る。

でも、彼女は既に、玲子の知っている友人ではない。

旦那の愛人へのケジメを付けに来る、プライドの高さ。

何もかもが、雲泥の差だった。

 

それでも!!

 

玲子は慌てて店を出て追いかけた。

 

そこには、黒いポルシェが停まっている。

のぞみと同じ車種の色違い…。

のぞみが勝てないと言った、レイラに似た正妻。

 

だけど…!!

 

「りな!!私…子供が居るの。2人。一人は中学2年になる女の子。もう一人は、2歳になったばかりの男の子。

今度…会いに来て。連絡するから。絶対するから!

そうしたら、私の話をちゃんと聞いてほしい!」

 

りなは、静かに玲子の方に振り返り…「分かった。待ってるね」と告げると、運転席に乗り込みハザードを数回点滅させてから去っていった。

 

「待ってて…今度こそ…見失わないから!」

 

玲子は泣いていた。

連日起こったどんな事にも、涙を流さなかった玲子がその場に泣き崩れた。

幼い子供のように道端で泣きじゃくる。

周りの気配なんてお構いなしに。

 

すると、歪んだ視界に見慣れた運動靴が映った。