NOVEL

男の裏側 vol.8~これでお別れ~  

 ***

 

「環」

 

音を立てずにこっそりとリビングのドアを開けたつもりだったのだが、すぐに電気がついて密が寝室から飛び出してきた。

 

「密さん……」

環がおびえたように後ずさると、そんな環を見て密はまるで傷ついたかのようにショックを受けた表情をした。

しかし、すぐに彼は頭を深く下げた。

「……ごめん、環。本当にごめん……。さっきのことだけど、あんな風に乱暴にして。環、傷ついたよね?」

「……いいの。密さん、もうそのことは……」

 

何度謝られようと、もう環の心は決まっていた。この人とは離婚するのだ。今更何を言われたって、絶対に信じない。

 

「いや、何度でも謝らせてくれ。本当に……。本当に、悪かった……」

 

密が顔を上げると、彼は号泣していることが分かった。ぼろぼろと涙を流し、そして環に近づいてきた。環が身構える間もないうちに、密は環に抱き着いて再び泣き始めた。

 

環は今更ながら密のことが分かってきたと感じた。

言葉の暴力を浴びせ、思い通りにいかなかったら怒る。そして、気が収まったら気弱に泣く。

 

(振り回して、私を支配するつもりなんだわ)

 

それが分かると、余計にこの人に関わっていちゃいけないと感じた。

泣く密の体温を感じながら、環はひどく冷めていた。

 

 ***

 

今日から23日で密は出張だった。

 

樹里と相談して、環は弁護士にも話を通した。弁護士からの話によると、彼が出張の今こそがチャンスなのだそうだ。危険性がある場合、出張中にそっと離れるのが良いのだと。

だから、環は事前に支度をこっそりとしておいた。あらかじめ、必要な荷物の場所を事前にチェックしておいて……。海外旅行用のスーツケースに詰めて持っていくつもりだった。

とは言っても、化粧品とか服とか、そういったものがほとんどだったけど。

家具なんかはほとんど密に買ってもらったものだった。持っていくはずもない。

 

最後だからと思って、密の好きなオムレツを作って、朝ご飯に出す。

「あれ、環。オムレツなんて久し振りじゃないか」

「ふふ。これ、密さん、おいしいって言ってくれたもんね」