アユミが呟くと、牧野は否定しなかった。
「私も利用されたうちの一人だからそんなに気落とさないで。ま、これ励ましになるか分からないけど」
アユミの肩をポンと叩き、牧野が笑う。
「え? それって」
「あいつと付き合ってたの。といってもそう思ってたのは私の方だけだったみたいだけど。年下のイケメンが彼氏になったーなんて浮かれてる間に、私が今まで作ってきた人脈全部持ってかれちゃった」
「……え」
「ねぇ、プライベートで今神尾と連絡取れないでしょ?」
次から次へと牧野が驚くことばかり言うので、アユミは言葉を受け取るだけで精一杯だ。
「それは……。ていうか、付き合ってたって……私、神尾さんと二人でデートしてたんですよ? 誕生日にも素敵なレストラン連れてってもらったんです」
神尾と二人で過ごしたあの楽しい時間が記憶に蘇り、アユミは突っかかるように牧野へ言い募った。
「うん、知ってる。道野さんとデートした日は大抵そのまま、神尾私の家に来てたから」
アユミは目を見開いて今度こそ言葉を失った。
「ごめんね、イヤなことばかり言って。私ももう用済みってことでつい数日前にプライベートの連絡先はブロックされちゃったのよ」
牧野は最後に「今度飲みにいこっか」とアユミに声を掛け自席へ戻っていった。
『神尾さん、私のこと全然好きじゃなかったんですか?』
いても経ってもいられなくなり神尾へラインを送ったが、やはりいくら待っても返信はなかった。一か月前に送ったラインも未読のままなのだ。
今年の冬が始まった頃は神尾と付き合うとばかり思っていたのに、牧野の話が本当だとしたら、自分はなんてバカだったのだろうか。
アユミは返信のないラインを眺めるのに飽きて、スマホの画面をタップすると神尾の連絡先を削除した。
たった5秒の動作で、もう二度と神尾とやり取りをすることがないと思うと、やはりただ待つよりもずっと気分がいい。
そのままその指で牧野にラインを送る。
『牧野さん、女二人で今度飲み明かしたいです。それと……一緒にもっといい男見つけましょ』
すぐに牧野から『オッケー、じゃあ明日行くよ!』と返事がきて、あまりの速さにアユミは吹き出し、こんな風に笑えるならまだ大丈夫だ、と自分に言い聞かせた。
END
はじめから読む▶踏み台の女 Vol.1 ~アユミの気持ち~