NOVEL

勝ち組妻 Vol.6 ~平凡な女性の抱える苦しみ~

タワーマンションの住人の心の内側! 

「わたしにはなにもない」平凡な女性の抱える苦しみとは?

 


 

前回:勝ち組妻 Vol.5 ~夫婦の閉ざされた悩み~

 

 

『初めまして。12階に住んでいます、里香と言います。若菜さんから京子さんのことを聞いて、連絡させていただきました。』

 

里香から連絡がきたのは、1月の半ば。

 お正月気分もちょうど静まってきたころだった。

 

――若菜さんが話したのね。

 

名古屋駅から徒歩数分。

 京子は、駅前の喧騒をぬけた、閑静な場所に立つフレンチレストランにきていた。

 

 ガラス張りの窓からみえるのは、名前のわからないたくさんの木々。

 夏には新緑が伸びる美しいそれも、身の震える寒さに縮こまっていた。

 食事を終え、会計を済ませると、寒さから逃れるように早歩きで駅へ向かう。

 

 

――里香さんも、何かに悩んでいるのね。

 

詳細は語られていなかったが、どうやら話を聞いてもらいたい、という連絡のようだ。

 

『この土日、どちらか空いておられますか。』

 と予定を聞かれたので、そうだろう。

 

――家に帰って、ゆっくり返信することにしよう。

 

革製の手袋をはめた手をぎゅっと握りしめ、家路を急いだ。

 

 

「わあ!素敵なお部屋ですね!!景色きれい~。わたしの住む12階とは、やっぱり眺めが違いますね!」

 

土曜日は幸雄が外出をするというので、自宅に里香を招くことにした。

 休日は、いつ人が来るかわからないラウンジで話すのも、気が気でない。

 

「ソファに座ってゆっくりしててね。紅茶でいい?」

 「ありがとうございます!紅茶好きです。」

 

――元気のいい子だわ。

 

ダマンフレールのアールグレイティを淹れながら、里香の様子を盗み見る。

 おそらく30代前半~半ばだろうが、年齢よりも若々しく見える。

 骨格がいいのか、少しふっくらしているようなのも、彼女の親しみやすさを増しているのだろう。

 

今も最上階から見える景色を、さまざまな立ち位置から思う存分楽しんでいるようだった。

 時折、「わー!きれーい」というような声もきこえてくる。

 

「用意ができましたよー。」

 「はーい。」

 

幼い子供のように返事をし、ソファに座る。

 

「わあ!なんか、これぞ優雅な午後って感じですね。」

 

テーブルに出した紅茶とクッキーを見た里香が、うっとりする。