「ねえねえ、ママー、きょうのごはん、ハンバーグがいい!」
香織の胸から離れ、つばが飛び散るほどの勢いで話す。
「はいはい。ブロッコリーも食べなきゃダメよ。」
「えー、おれ、ぶろっこりーきらーい。」
「おれじゃなくて、ぼくって言ってほしいなあ。」
二人で手をつなぎながら、駐車場まで歩く。香織の左手に、拓海の小さな右手がすっぽりとおさまる。いつかこの手が離れて行くとき、拓海は一体どんな大人になっているのだろう。
母親として、きちんと教えることは教えていくつもりだ。この子の存在で、救われる人がいるのなら。
大変だけれど、大きくなるまでもう少し。この子をがんばって育てよう。
「あっ、拓海!待ちなさい!」
香織の手をすり抜けて、車の方へ走っていく拓海を追いかけながら、それはまだまだ先のことになりそうだと小さくため息をついた。
END
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