一通りの美術鑑賞を終え、奇妙な思いを胸に懐きながらも私はタクシーを呼び帰路に着く。
心に抱えたモヤモヤが晴れたわけではないが不意に、帰りたいとの思いが心に湧き上がったのも事実だ。
その後、私は自宅へと帰宅する。
「奥様、お帰りなさいませ」
帰宅すると早苗さんが笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま、早苗さん。いい気晴らしになったわ」
「それは何よりです」
私は早苗さんと挨拶を交わし、聡也の様子を見に向かった。
(良かった…ぐっすりと眠ってる)
少し気がかりではあったが、聡也は何事もなかったかのようにスヤスヤと眠っていた。
だが…。
その最中、玄関のドアが開く音を耳にする。
(え、誰だろう?)
その後、玄関に様子を見に行くと、そこには役員の食事会で遅くなるはずの翔平が立っていた。
(どうして帰ってきてるの?)
有り得ないはずの光景を目にし、私は一瞬、動揺する。
しかし、呆然と立ち尽くしていると、彼はやや視線を逸らしつつ私に向けて言った。
「あ~、今日は思ったより早く食事会の方が終わってな…。それに今日は結婚念日だからな」
(覚えていてくれたんだ…)
そんな思いがけない言葉を聞き、胸が熱くなった。
激しい鼓動と熱い想い。
そして、言葉を発するよりも先に私は、彼と熱い口づけを交わした。
Next:3月31日
結婚記念日当日の夜、夫・翔平と充実した時間を過ごすも、その後の美佳に訪れたのはいつもの日々。そんな美佳の様子を見て家政婦の早苗がある提案をする。