確かに彼女の言う通り、気分転換は必要不可欠な要素だろう。
「ありがとう早苗さん、その言葉に甘えさせてもらうわね」
「はい、気をつけてお出かけくださいませ、奥様」
そして、彼女の言葉に甘え、外出することを決断する。
こうして外出した私は、名古屋市東区徳川町にある美術館へと向かった。
翔平と結婚する前、よく足を運んだ思い出の場所。
彼は歴史的美術品には詳しくなかったが、私が美術に興味があることを知った彼はデートの時、たまにここへと連れてきてくれたのだ。
結婚してから約2年…。
気が付けば、ここを訪れることはなくなっていた。
(なんか懐かしいな…)
そんなこともあってか、私は昔を懐かしみながら展示品を鑑賞する。
デートの時、彼はよく私に「これはどういったものなんだい?」と聞いてきたものだ。
そんな過去を思い返しつつ、過ぎ去った思い出に浸る。
しかし、そんな時、私は不意に気付かされた。
彼への想いに…。
考えてみれば交際期間は一年にも満たないし、私は彼のことをあまり知らないで結婚した。
婚期を逃したくないとの焦りもあったが、正直なところ流されるがままに彼と結婚したのである。
だから正直、彼のことが本当に好きだという感覚がどこかで、曖昧になっていた。
しかし、こうして振り返り改めて共に過ごした時間を思い出すと、何かこう…。
愛おしさのようなものを、持っていたことに改めて気が付かされる。
それが夫への愛情と言えるのかは正直言って分からない。
ただ、それでも…。
きっと、それは何かしらの思いなのだろう。
(とりあえず、帰ろうか)