「天の川みたいでしょう」
「!!」
反射的に振り返ると、目の前にトレイを手にしたピエールが立っている。
「驚かせちゃった?ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
大きく脈打った鼓動はまだ収まらない。言いようのない不安が胸に広がっている。
けれど顔に出ることはない。
紗希のいつもの癖だった。
どこか緊張した空気をかき消す様にピエールが話しかける。
「お待たせ。簡単なものでごめんなさいね」
ピエールはカナッペとテリーヌ、サラダ、フルーツを乗せたお皿をテーブルに置いた。
ワイングラスに買ってきたワインを開けて白ワインを注ぎ入れる。
Louis Latour Montrachet Grand Cru ルイ ラトゥール モンラッシェ。
フランスの香りが夜空に溶け出していく。
「はい、どうぞ」
差し出されたグラスを紗希は手に取った。
「乾杯」
「・・何に?」
「星空に」
意味深にピエールが微笑む。
その笑顔に紗希は何かを思い出しそうになる。
あれは、いつのことだっただろう。
水風船が弾ける様に記憶の扉が開く。
ピエールの瞳に青い炎が揺らいだのを紗希は見過ごさなかった。
「・・香那?」
忘れかけていた名前が記憶の海から浮かび上がってきた。
懐かしさと、胸の痛みを伴って・・。
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紗希が遠い記憶を思い返していると、ピエールの仕事仲間数人が彼の自宅に入って来た。そして紗希はその中のある男性と仲良くなる。