NOVEL

noblesse oblige vol.6~偶然と必然~

カーン、カーン、カーン

教会の鐘の音が鳴っている。

この時間になる鐘の音は結婚式かも知れない。

 


前回:noblesse oblige vol.5~悔恨と懺悔~

はじめから読む:noblesse oblige vol.1いつもの夕暮れに~

 

  • シーン1 静音の場合

 

どんな鐘だとしても静音の耳には物哀しい。

まるでレクイエムのようだといつも思う。

悲惨な事故は静音の父によって収められていた。

 

せめてもの償いとして多額の賠償金が提示された。

悲しみに暮れる家族にとっては意味をなさないかもしれない。

 

でも少女の両親は自分たちを責めてもいた。

(あの時目を離したりしなければ)

瀕死の静音を責めることも、許すことも出来ずにいた。

どうやって折り合いをつけたのかは分からない。

ただ和解が成立していた。

 

周囲の誰も静音を責めなかった。

父さえも、何も触れない。

 

半年ほど経ったころ、ようやく沙耶香と瑞穂のことを思い出した。

誰もが遠巻きにしていた中、あの二人が駆け寄ってくれた。

何も感じない心の中。

そのことだけは感謝したいと思えた。

 

  • シーン2 沙耶香の場合

 

悲惨な事故を目の当たりにして沙耶香は重い足取りで帰路についた。

レスキューがスノーモービルで二人を搬送していったあと。

少女の出血でウエアには血糊がついていた。

 

レスキューが沙耶香を麓まで送ってくれた。

救急隊員からの連絡で少女の死と静音の手術が終わったことを聞かされた。

静音のスキー板のエッジは何故かかなり鋭利な状態だったらしい。

 

日常に戻ってもあの時一緒だった友人と会うと思い出され疎遠になっていた。

スキー自体、気が乗らずあれから一度も行っていない。

たまにあの時、重症を負った静音という女性のことを思う。