「はじめまして。ピエール・要です。由衣さんにはご贔屓にしていただいてるの。よろしく」
差し出された左手に手を添えながら紗希も挨拶を返す。
「こちらこそ。宮田紗希です。よろしくお願いします」
真正面から見ると、透けるようなブルーの瞳になぜか懐かしさを感じる。
「・・どこかで、お会いしました?」
紗希はつい言葉にしていた。
「あら、こんな綺麗なお嬢さん、会ったら覚えてるわよ」
ピエールは大げさに手を振って打ち消した。
「そう、ですよね」
こんな個性的な人物に会ったことがあれば記憶にある筈だ。
(勘違いね)紗希はそう思いなおした。
「で、今日はどうするの?」
由衣にそう尋ねるとピエールは紗希の手を離す。
「私はトリートメントだけで。紗希ちゃんはどうする?」
由衣とピエールに見つめられ、呟くように応える。
「私、どんなスタイルが似合うかしら?」
紗希の答えは予想外だったのか由衣が驚いたように声をあげる。
「さきちゃん、イメチェンしたいの?」
「そうね、少しカットして、軽くしましょうか。瞳が綺麗だから似合うわよ、きっと」
ピエールは別段、驚いたふうではなく紗希の髪に触れながら答える。
「・・じゃあ、お願いします」
「ええ、任せて。素敵にしてあげる」
カバンをスタッフに預けると、促されたシャンプー台に向かう。
新しい自分になれる、そんな気がして胸が高鳴った。
9時PM
「さ、素敵になった!」
ピエールにケープを取られて紗希は瞬きをする。
鏡の中に見知らぬ女性が居る。
前髪は眉毛の下あたりで軽やかに切り揃えられ全体の長さは肩にかかるくらい。
少し、明るいカラーを施したヘアスタイル。
紗希を10歳ほど若く見せていた。