手紙を開ける手が更に震える。
“坂本克哉へ 大きくなった君はなりたい自分になっていますか?”
そんな一言で始まった手紙の最後に書かれた文字。
“宮田紗希へ 僕は君が大好きです。20年後、隣で笑っていますか?”
それを見て紗希は声をあげて泣いた。
あれから初めて、大きな声で。
どれくらい経っただろう。テラスに風が吹き抜けた。
「冷めちゃったわね、入れ替えましょう」
ピエールがカップを下げる。
後ろ姿をぼんやりと見つめながら、紗希は空を見上げた。
久しぶりに空が青いことに気づいて、深呼吸する。
「はい、どうぞ」
戻って来たピエールが紅茶の入ったカップを差し出した。
添えられたメモに何か書いてある。
紗希は手にとってメモを読んだ。
“Hang up philosophy!”
(・・これって)
紗希はピエールを見上げる。
「物事には違う面があるものよ、紗希」
「・・香那なの?」
「何度もヒントをあげたのに、本当鈍いわね、相変わらず」
ピエールがクスクス笑う。
「だって、違うもの」
「あぁ、ちょっと弄ったの。頰のあたり、色々したついでにね」
ピエール、いや香那が涼しい顔で告げる。
「いわゆるTransgenderってことね」
じっと見つめると、懐かしい瞳は変わっていないことに改めて気づく。