彼氏いない歴26年の女。
無事次のステップへ踏み出すことが出来たものの!?
恋愛なんて、時間の無駄だと思っていた。
理由は2つ。
器用でない幸枝は、新薬の開発がしたいという目標に向かって一直線でなければならなかったから。
もう1つは、面倒なことは避けたいから。
自分の信念を揺るがす出来事があれば、しかもそれに他人が関わるとなれば、それはもう解決しなければならない問題になってしまうのではないか。
譲れない考えなら、自分を変えるか、相手を納得させなければならない。
労力を考えると、どうしても人間と深く関わるのが億劫になってしまう。
生きていく中で恋愛は、人類において最も他人と深く関わらなければならないイベントだ。
だから避けてきた。
だが、どうだろう。
塚本と過ごす時間は、そんな幸枝の考えを溶解させる力をもっていた。
―今が楽しければ、それでもいいんじゃないか。
何も、ずっと一緒にいることがすべてではない。
塚本とは何回かデートを重ねたあと、正式に付き合うこととなった。
斎藤に報告すると、
「もうとっくに付き合ってると思ってた!おめでとう!よかったね!」
と喜んでくれた。
塚本は幸枝をたくさん褒めた。かわいい顔、素直で純粋、賢い。
最初は「可愛い」と褒められても信じられなかった。
今まで地味で芋っぽくて、おしゃれにも疎かったし、自信がなかった。
だが、大人になって、思春期のパンパンだった顔もスラリと痩せた。
塚本にかわいいと言ってもらいたくて、美容の研究もした。
化粧も覚えて、服にも気を遣うようになった。
休日は1日中スウェットを着ていることなんてザラだった。
塚本と付き合ってからは、夜コンビニへ行くのにも服装に気を使って、どこで誰と会ってもいいように出かけるようになった。
街を歩いていても、自分が注目されていることがわかった。
毎日明るくなれる言葉を身近な人からかけられて、幸枝はどんどん自分に自信をもっていった。
付き合って数ヶ月の倦怠期も乗り越え、お互いの誕生日も、クリスマスも、年越しも二人で迎えた。
塚本さんと呼んでいた名前は、いつしか〝公平″になった。
ケンカしそうな場面はいくつもあったが、大きな言い合いになることはなかった。
お互いいやなことは「やめて」と伝えていたし、相手が傷つかないように言い方も考えた。
お皿の洗い方から、連絡の頻度、お金の使い方まで。