NOVEL

2番目の女 vol.7 〜既読にならない週末〜

 

「今度、森田さんと水族館デートに行くんだけど…」

 

水族館デートなんて、何年ぶりだろう。そもそも、水族館デートなんて行ったことがあっただろうか。それくらい私にとって「水族館デート」は未知の世界。服装選びから何から何まで、私は後輩に相談するしかなかった。

そんな私の話を聞いて、後輩は可笑しそうに笑った。「仕事ではあんなに頼りになる向井さんなのに、意外とウブだったんですね」と、茶化すように笑う後輩に少々腹は立ったが、それ以上に相談できる相手ができたのは嬉しかった。

 

「私、大ちゃんの好みバッチリ把握してるんで任せてくださいよ」

 

後輩は胸を張って言う。確証もない言葉だが、私はそんな後輩の言葉に安心させられた。「今日仕事終わったら、一緒に服買いに行きましょ」と後輩は付け加えて、自分のデスクへと戻った。その日の仕事はいつも以上に捗り(はかど)、無事定時の10分前には片付けることができた。恋愛の力って不思議だ。

 

定時になり、会社を出た私たちは、名古屋駅のショッピングセンターに向かった。数多く並ぶ店の中で、後輩が良く行くというお店に連れてこられた。

 

「大ちゃんは、スカートよりパンツの方が好きなんです。水族館だと歩くと思いますし」

 

そう言って後輩が持ってきたのは、カジュアルなコーディネート。今までデートとなると必ずスカートを履いて女性らしい服装を心がけていた私にとっては、予想外のコーディネートだった。

 

「これにシンプルなスニーカーで十分です。向井さんはスタイルも良いし、パンツスタイルの方が似合いますよ」

 

そう言って私の背中をポンッと叩く後輩。まるで、森田さんとの恋愛を後押ししているみたいだ。

 

「ありがとう、何か勇気出た」

「もっと自信持ってください、私応援してますから」

 

無事買い物が終わり、駅の改札を潜ると私の表情を見て笑顔で手を振る後輩。不安に思っていることが顔に出ていたのかな。なんて思いながらホームへと向かう。

いつもと同じ帰りの電車。違うのは、手にデート服を抱えていることくらい。それなのに、今日の窓から見える夜景はいつも以上に輝いて見えた。

家に着くと、私は早速購入したばかりの服を取り出す。そして明日の準備を始めた。初めてのデートの何倍もワクワクしながら準備をする。準備に夢中になっていると、急に着信音が鳴る。相手は、森田さんだった。

 

「もしもし?」

「あ、もしもし。急にすみません。明日、10時にこの前のところで良いですか?」

「大丈夫です、わざわざありがとうございます」

 

LINEのメッセージでも良い内容なのに、わざわざ電話をくれる森田さん。電話越しに声を聞くだけで、嬉しくなっている私がいた。