NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.6

仕掛けられた罠にはまっていく行くトライアングルの行方とは?

恋の駆け引きは、会話の糸で紡がれて、数多の男を落としてきた悪女の手練手管がついに乱れ咲く。

 


前回:悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.5

 

小枝子が莉子に送り付けてきた『ホームパーティ』さながらのダイニングテーブルには、昭人自家製のローストビーフを中心に、洒落た料理が並んでいた。

用意された赤ワインのラベルをチェックすると、そこまで高いものではなかった。せいぜい酒屋で5000円前後だろうか。

向かい合わせで、遊川夫婦と莉子は席に座った。

 

「それじゃあ改めて、紹介する。」

 

小枝子が一人、そわそわしながら席を立った。

莉子はにこやかな視線を小枝子に向けつつ、視野の端で昭人を捉えていた。昭人は冷めた微笑を浮かべ、横目に小枝子を見上げている。口元が少しだけ緩んでいるのを見ると、いつもの事だという包容力が垣間見えた。

 

小枝子は、大学時代からの大親友として莉子を紹介した。

莉子は、「もう…」と言いながら、改めて昭人の顔を真正面から見つめた。

昭人は歯を薄っすら見せて、笑いながら「よろしく」と響きのある声で答えた。口は笑っているが、瞳の奥はそこまで笑っていないように見える。

 

そこで、小枝子が莉子の事をどう説明したのかは、予想がついた。

しかし、まだその確信に触れる頃合いではない。

 

小枝子は次に「こんなどうしようもない私の旦那になってくれた、昭人です。」と、昭人の肩に手を回した。

苦笑いを浮かべながら、昭人は小枝子にされるがまま上半身をゆすられている。

 

昭人の職業が知りたい。まずはそこからがスタートだと莉子は思った。

 

ビジュアルのバランスは、均等が取れている。だからと言って、特質的ないい声と、綺麗な口の開き方が気になる。営業か、起業家か、まさか政治家という事はないだろうが、莉子は小枝子が昭人にじゃれついている姿を傍観しながら、昭人の値踏みを始めていた。

 

―あ、気付いている…―

 

莉子が何を考え、小枝子と昭人のスキンシップを、微笑みながら見ているのか、昭人は恐らく気付いているのだろう。

時々莉子に流し目を送ってきて、その瞬間だけ左の唇が綺麗に上がる。