「…おい、これは…」
雄一郎が振り返ると、珠子は薄いエメラルドグリーンのカジュアルドレスを脱ぎ、挑発的な下着姿になっていた。
レースのカーテンから差し込む日差しを逆光にして、綺麗なS字のボディラインの影に雄一郎もドキリと目を見開く。
珠子とのベッドライフは確かに少なかったが、華奢な骨格に程よい肉好きの珠子の身体は、雄一郎も気に入っていた。
「おまえ…どうしたんだ…」
「初夜を、やり直すのよ。私たち夫婦になったんだもの」
技術で言えば愛子が断トツにいい。
たまに、楽しむという意味では麻梨恵もそそられる。
しかし、珠子が挑発してくるのなら、珠子の身体も捨てたものでない。
それが、雄一郎の評価だ。
交際中から、雄一郎は珠子の身体のラインをよく褒めてくれた。
それがお世辞ではないことを、珠子も理解していた。
だから、ランジェリー専門のオーダーメイドプランナーを呼びつけて、綺麗に見えるトータルコーディネイトをお願いし、この瞬間を迎えたのだ。
愛子にも、麻梨恵にも渡さない。
妻になったら、女ではなくなるのではない。
妻である立場を利用して、この男を…否、西園寺家を永住の地にするべく、珠子は人生の全てを賭けたのだ。
もう、何も迷うことはない。
『男なんて、下半身を捕まえてしまえばいいのよ』
これは愛子が言っていたことだ。
当時の珠子は、まだ恋に恋をする乙女だった。
シンデレラのように、白雪姫のように、愛されて玉の輿に乗ることを夢見ていた。
だが、現実はそうではない。
夢物語は終わった。
この男を逃さないためなら、何でもする覚悟を、愛子から、そして麻梨恵から見せつけられた。
雄一郎は、珠子に激しいキスを捧げた。
二階の珠子の部屋にはバルコニーが備わっていたが、その先の大きな窓枠の中で、影が重なり合うのが見える。
夫婦が身体を重ね合わすことを、隠す必要はないからか?
それとも、見せつける為になのか?
庭から芽衣が見上げていた。
『ホント…愚かな女。
やることすべてが的外れなのよ。本当の彼を知っても、ここに居たいと思えるのかしら…?』
形のいい、小さな唇を引き上げる。
―いつまで、続くかな…―
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新婚生活を始めて3か月が過ぎたころ、西園寺家の夜会で麻梨恵の遠縁にあたる流沢飛成を紹介された珠子。その美しい顔立ちに珠子は惹きつけられてしまう。