NOVEL

玉の輿vol.7 ~報復の章~

『心配をかけた…』

ではなく、あくまでも自分の非を謝罪しているだけなのだ。

 

「あの女…思っていたより、やるわね。楽しみじゃない…」

珠子が去った後に、そう口を開いたのは、道隆を思い通りに動かす妻、昌枝だった。

 

道隆と昌枝のティーカップに紅茶を注いでいた、芽衣の背中に悪寒が走る。

 

本当に何を考えているのか、解らないのは、この『昌枝』だ。

道隆とは遠縁の血族婚だと聞いている。

 

「芽衣。あなたも、まぁ頑張りなさい」

「…はい…有難うございます…」

 

昌枝の左薬指には、重そうな3Ctのダイヤの指輪がこれ見よがしに輝いていた。

 

雄一郎が一人で、西園寺家に戻ってきたのは、予定よりも一週間も後の事。

珠子へのお土産は、その前の週には郵送で届いていたが、珠子はその大きな空輸便を開ける事もなく、実家の生頼家へ送るように指示を出した。

中身がブランド品の詰め合わせなのは解っている。

それも、全て愛子が選んだものだろう。

 

珠子は、母宛に『中のブランド品は自由にお使いください』とメールを入れた。

それを売ってローン返済にあてるもよし、気に入ったものは使えばいい。

 

これが、珠子からできる最後の親孝行だと覚悟を決めた。

 

帰宅した雄一郎からは、オーダーメイドで作らせたルビーのネックレスを渡された。

優しく微笑む雄一郎の表情を見ていれば、随分と楽しんできた事が伝わってくる。

 

『二人で新婚旅行に行ったという、証を身に着けておけ』とでも言いたいのだろう。

それに対して珠子は、快くに受け取った後に一言付け加えた。

 

「有難う。嬉しい。これは貴方からのプレゼントだと思うことにするわ。

…でも、私は、ダイヤの方がよかったわ」

珠子から雄一郎に意見をしたことは、今までに一度もなかった。

 

雄一郎は少し不機嫌な表情を浮かべ…答える。

「珠子にも、もっと華やかでいてほしいから選んだんだよ」

「華やかさが足りなくてごめんなさい。だからこの一か月、色々と準備したのよ?

貴方好みの…貴方に相応しい女性になりたくて!」

 

珠子は自室に雄一郎を連れ込むと、衣装部屋を開け放った。

愛子が珠子に似合うよう揃えた、静かな色合いの服が全て、派手な物にすり替わっていた。