槙さんに誘われるがままに向かった先は、いつものコンビニだった。
槙さんはさっさと歩いて中に入ると、カゴにチューハイやプライベートブランドのつまみ、ポテトチップスにアイスと、容赦なく入れていく。
はじめから読む:御前崎薫は… vol.1~女が怖い~
「私、本当はこういうものが好きなんです」
「そう……なんですか」
それならば、と。僕もビールとつまみ、それから先日買った牛丼と同じものをカゴに入れた。
「お米系もいっちゃうんですか?」
槙さんのその言葉には、面白がるような響きがあった。
「えぇ。これ、意外とイケるんですよ。食べたことあります?」
「信頼できる人が勧めるものは試してみることにしてるので、私も買います」
槙さんはそう答えると、躊躇なく牛丼を、すでに物でいっぱいなカゴの中に加えた。
好きなものを買いつくした僕らは、いっぱいになった袋をそれぞれ持って、マンションへと向かった。不思議と、エレベーターに一緒に乗っても、嫌な感じはしなかった。槙さんも同じだと良いなと思う。
槙さんはそのまま、迷うことなく自分の部屋へと僕を招いた。
部屋の中はいたってシンプルで。よく言う「女の子の部屋は良い匂い」だとか、そういうのはよく分からなかった。
「適当に座ってください」
「なんと言うか……あまり、物がないですね」
「片付け苦手なんです。だから、最初から物を減らせば良いかなって」
槙さんはソファに腰を下ろすと、自分の持っていた袋からチューハイを取り出した。僕も慌ててそれと向かい合うように座り、ビールを出す。
「本当は、御前崎さんと一緒に飲まないようにしようと思ってたんですけど。この前、みっともないとこ見せちゃったし」
「あ……そんな」
それでだったのか、と。ちょっとホッとする。警戒されていたわけじゃなかったのか。
「……あの、さっきはありがとうございました」
ビールに口をつける前に、頭を下げる。頭を掻き、小さく息を吐く。
「まさか、あんなところで会うとは……行かないからって、同窓会やる場所を確認してなかった僕のミスです」
「そうですね。御前崎さん、意外とおっちょこちょいなところがあるんだなって思いました」
クスクスと笑いながら、槙さんが相槌を打つ。その喉を、ごくりとチューハイが下る音が聞こえた。
「そのうえ、槙さんにいざというところで助けてもらって……やっぱり僕は、ダメですね」
槙さんに引かれた手を見つめる。まだ、あの小さな手のひらの感触が残っているような気がした。
「ダメなんかじゃないですよ」
柔らかい声で、槙さんが言う。その頬は、アルコールのせいかほんのり赤い。
「御前崎さんは、あそこで一生懸命戦っていたんだと思います。私、御前崎さんが当の彼女に会ったりしたら、逃げ出すか、倒れちゃうかするんじゃないかと思っていましたけど。辛いはずなのに笑顔を作って、その場に留まっていたじゃないですか」
「そう……でしょうか。でも、結局槙さんに助けられて――」
「私に助けられたから情けないんですか?それは、私が女だからですか?女なんかに助けられて情けない――って。そう思ってるんですか?」
槙さんの目が鋭くなる。慌てて、「違います」と両手を振った。
「そうじゃなくて。僕がどうにかしなきゃいけないことを、槙さんに肩代わりさせてしまった気がして」
「それなら問題ないです。だって私たち、同志じゃないですか。同志は助け合うものでしょう?」
そう告げる槙さんは、胸を張って堂々としていて。それがやたらとカッコ良く見える。