〜♪〜〜
弦の音色が潮騒に乗って跳ねる
涼やかな音色
女性ヴァイオリニストと男性のチェリストが旋律を奏で出した。
前回:noblesse oblige vol.6~偶然と必然~
はじめから読む:noblesse oblige vol.1~いつもの夕暮れに~
パーティーの余興らしい。
沙耶香は窓を背にした二人に視線を向けた。
“Duo for Violin and Cello”
巧みな技巧が求められる曲。
BGMとしては多少、重いが嫌いではない。
美しい音色に聞き入っていると不意に肩に触れられた。
「・・・かしら?」
語尾だけ聞き取れた。
どうやら話しかけられていたらしい。
声の方へ身体を向ける。
先ほど美佐恵に話しかけた女性ともうひとり別の女性。
スパンコールをあしらった黒いワンピースを纏っている。
胸元にはブルガリのチョーカー。
気軽なランチと聞いてきたけれど・・。
(これが普通の感覚なのかしら)
沙耶香は胸の中で溜め息をつく。
「沙耶香さんはどちらのご出身なのかしら?」
紹介されていないから名前は分からない。
シフォンのワンピースを揺らしながら女性が繰り返す。
「神戸です」
「あら、関西の方なのね」
「お話しされるとわかるのかしら?それとも直された?」
関西圏だと告げるたびに、同じ質問をされてきた。