プライドとは築き上げていくものであって、持って生まれてくるものではない。
惑わされそうな日々に、黄色いパンジーの花が飾られる。
守るべきものがある女は、蔑(さげす)まれ、夜の花として開花した。
はじめから読む▶【錦の女】vol.1~「リナ」という名まえ~
玲子はどんなに遅く帰宅しても、平日の起床時間は朝の6時。
奈緒の弁当と朝食を用意して、学校に行く娘を見送る。
掃除洗濯などは奈緒がしてくれるので、息子の裕也との時間を過ごしてから10時にはアパートを出て、裕也を保育所に預けパートへ行くのがルーティーンとなっていた。
アパートに家族3人で暮らし始めてから欠かしたことはないのだが、起きた時には既に9時になっていて、一人で遊ぶ裕也に顔を蹴られて玲子は飛び起きた。
『やってしまった・・・!』
大きなため息と共に、玲子は頭を抱えた。
裕也は玲子の枕元でお気に入りの玩具を並べて遊んでいる。
きっと、奈緒が裕也にも食事をさせ、登校するギリギリまで面倒を見てくれたのだろう。
一人遊びが割と好きな裕也は、『ママ、ママ~』と言いながらも大人しく玲子が起きるのを待ってくれていた。
昨夜、子供たちの前であれだけ取り乱し、中学生の娘に家庭の事を全て押し付けた罪悪感に苛まれた。
そろそろパートに行く仕度をしなければいけないが、身体が重くて思うように動けず、玲子は勤めてから初めて欠勤の連絡を入れた。
裕也とゆっくり遊ぶのは久々だった。
父親がどんな男であっても、この子にその責任はない。
何よりも、裕也は自分の子なのだ。
奈緒も父親が違う事を知りながらも、裕也を弟として可愛がってくれる。
自分の両親が眉をひそめても、元夫が毛嫌いしても…。
玲子は、裕也を守れる自分でありたいと思う。
それは決して自分が犯した罪への代償の副産物ではなく、この世に生まれてくれた愛おしい存在として。
奈緒は「スーパーを休んだ」という玲子からの連絡を見て、早めに帰宅した。
何事もなかったかのように振る舞ってくれる娘の方が、大人びていて玲子は居た堪れない気持ちになる。
『お父さんの所に来て欲しい』
今でもそういう連絡が来ている事は玲子も知っている。
それを選ぶのは奈緒自身だと思う。
元夫は弁護士なので自分が犯した事を考えれば、慰謝料を請求されてもおかしくはなかったが、生活能力のない玲子に対してそこまでしないでくれたことは有難たかった。
奈緒の親権については元夫が持っている。
しかし、奈緒が「お母さん一人でなんて可哀そうだから」と言う強い意志で、玲子と暮らす事を選んだ。